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「なぜWBCを自ら辞退した?」巨人・坂本勇人34歳、“崖っぷちの1年”がスタート…昨季は最低成績、阿部慎之助も高橋由伸も苦しんだ「35歳の壁」
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byJIJI PRESS
posted2023/02/09 17:23
昨年11月末の契約更改で。1988年生まれの坂本勇人は今年で35歳になる
12年前、22歳の坂本が語っていたこと
こうして見ると、やはり“35歳の壁”は厳しいと言わざるを得ないが、実は彼らは皆“大学・社会人経由”での巨人入りだ。あらためて高卒でプロ入りしてから、補強も多く、選手の入れ替わりの激しい巨人で15年近くレギュラーを張っている坂本の特異なキャリアと、恐るべきタフさにも驚かされる。松井秀喜がキャリアの絶頂でヤンキースへ移籍したため、近年の巨人では高卒ドラ1野手が、10代から30代中盤までずっとレギュラーとして活躍するというケースはほぼ皆無である。我々は来季で球団創立90周年を迎える巨人の長い歴史でも、非常に特殊な選手のキャリアの分岐点に立ち会っているわけだ。
手元に12年前の2011年春発売のNumber776号がある。「黄金世代がプロ野球を面白くする」という若き日の88年組の特集号だ。その中のインタビューで当時22歳の坂本は、こんな言葉を残している。
「ファン、ベンチがここで打って欲しい、ここで決めて欲しいというときに、どんなヒットでも、どんなホームランでもいいからそこで打てる。みんなが期待した瞬間に応えられるバッターが僕は好きです。それを求めてやっていきたい」
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追い求めた理想はやがて現実になり、当たり前の風景として定着した。今の坂本のライバルは、同世代の盟友でも、そのポジションを奪おうとする若手選手でもない。「過去の自分」である。すべてのプロ野球選手は30代中盤で、全盛期の自分のイメージと戦うハメになるのだ。
◆◆◆
ベンチの原監督は坂本のデビューから、誰よりも近くでそのキャリアを見届けてきた。いわばショート坂本のチームを構築した指揮官が、攻守で昔の背番号6には遠く及ばない、もうあの状態には戻らないと判断したとき、坂本のコンバートは例えシーズン中でも現実味を帯びるだろう。
迎えたプロ17年目。8年間務めた主将の座も譲り、WBCの日本代表も辞退した。いわば、築き上げた「ショート坂本」を死守するための崖っぷちの1年だ。
超えていけ、過去も、自分も――。今年35歳の坂本勇人が、あの頃の坂本勇人に挑戦する正念場のシーズンが始まろうとしている。
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