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近鉄の伝説的バッターはなぜ“大金を貸し続けた”のか? 「300万貸したヤツがベンチの真上に…」豪快エピソードに隠された“栗橋茂の真実”
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byNumberWeb
posted2023/02/14 11:01
近鉄「伝説の4番」栗橋茂さん。現在はスナック『しゃむすん』でマスターを務める
1988年、栗橋は12年ぶりに開幕スタメンから外れる。6月29日にブライアントが加入すると、出番はさらに減った。ペナントレース終盤、近鉄は首位・西武を猛追する。二軍落ちしていた栗橋は9月17日に一軍昇格。優勝経験のあるベテランとして見せ場がやってきた。しかし、スタメンで起用されても左投手が来れば、1打席で代えられた。代打で登場しても、相手が左投手を当てるとベンチに下げられた。猛牛軍団を支えてきた男のプライドは傷つけられた。
現役晩年。「10.19」をどう見たか
9月20日以降14打席ノーヒットのまま、10月19日川崎球場でのロッテとのダブルヘッダーを迎える。近鉄は連勝すれば優勝が決まる。喜怒哀楽の全てが詰まった球史に残る1日だったが、栗橋の心はここに在らずだった。
「俺はもう辞めきゃいけないのかな、引退したらどうしようかなって、自分のことを考えてた。他の選手はワーワー叫びながら野球をしていたけど、俺は冷静だったの。その分、変に周りが見えた。西武が何年も優勝していたから、ロッテは近鉄に勝たせてもいい気持ちもあったと思う。でも、近鉄が関西弁でガーガー野次り過ぎて怒らせたんだよね。川崎球場は狭いから、よく聞こえるんだよ。普段おとなしい山本功児や袴田(英利)がバッターボックスに入った時、近鉄のベンチをガッと睨んでたもんね。中西(太)さんがホームインした鈴木と抱き合ってゴロゴロ転がったのも、鼻についたと思うよ。ああいう時は騒ぎ過ぎちゃダメだよ」
近鉄は1試合目に逆転勝利を収めるも、2試合目は延長10回時間切れ引き分けに終わって2厘差で優勝を逃した。栗橋は2試合とも代打で出場したが、三振とライトフライに終わった。
歓喜の球場、怒る栗橋…「300万貸したヤツが客席に」
翌年、近鉄は『10.19』の雪辱を果たす。ブライアントの4発で西武から首位を奪った2日後の10月14日、本拠地・藤井寺球場にダイエーを迎え、加藤哲郎一阿波野秀幸のリレーで9年ぶりの優勝を決めた。2軍落ちしていた栗橋や羽田耕一のベテラン勢も球場に呼ばれ、胴上げされた。しかし、歓喜に沸くスタジアムで栗橋だけは怒りに満ちていた。
「例の300万貸したヤツがベンチの真上にいたんだよ。客席でお金の入ったバック持って、『栗橋~イエーイ!』って見せびらかせてる。博打で勝ったんじゃないの? 俺、ビールかけなんか行きたくなかったもん。本当はそいつのところに向かいたかった」