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ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
DeNA戦力外→MLBキャンプ招待、乙坂智29歳が語る“中南米からの逆転秘話”「(41盗塁は)人生かかっているから足も速くなります(笑)」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byTomo Otosaka
posted2023/02/06 11:06
メキシコ、そしてベネズエラでも活躍した乙坂。昨季だけで41盗塁を決めたが、NPB8年間で通算19盗塁の乙坂の身に何が起きていたのか
「じつはMLBの2球団からマイナー契約と招待選手としてスプリングキャンプ参加の打診があったんです」
喜ばしいことかと思えたが、乙坂の表情は曇ったままだ。
「ただ、保留者名簿というのがあって、僕の保有権はまだメキシコリーグのサラペロスにあるんですよ。チームがそれを手放してくれないかぎり、僕がMLBに行くのは難しい状況です。今はエージェントを通して交渉中なのですが、まだちょっとどうなるかわからないんです」
夢の舞台に指先が掛かったと思いきや、契約上の問題が乙坂には立ちふさがっていた。
「もしかしたらまたメキシコでやるかもしれないし、ただMLBに行くためにいろいろと可能性を探っているので、いいお話ができる日が来ればいいなと思っています」
メキシコやベネズエラの人って“魂レベル”がむちゃくちゃ高い
乙坂は感情を表に出さず、言葉を噛み締めるようにそう言った。しかし眼には力があり、この障害とて自ら超えてやろうという気概に溢れているようだった。
『横浜から世界へ』を合言葉にスタートした乙坂の野球ロマン。中米と南米で爪痕を残した1年間は、どんな時間だったのか。
「魂を磨く1年間でしたね」
海の向こうを見つめるように乙坂は言った。
「僕は“魂のレベル”ってあると思っているんですけど、メキシコやベネズエラの人って魂レベルがむちゃくちゃ高いなって感じたんですよ。治安も悪いし、誰もが生きることに必死。日本がどうこうって話ではなく、そういった人たちに触れ、囲まれて生活していると、リアルな優しさや厳しさ、生きざまを目の当たりにするわけです。それは自分の人生において確実にプラスになったなって。日本にいたら気がつかないことって絶対にあるはずなんです。だから僕は今後の生き方を考えても、海外で野球をすることに挑戦して良かったなって思っています。予想のつかないことばかりだったけど、多くの人との出会いや運もあるなかすごく楽しかったし、人間的に確実に成長できたと思いますね。メキシコやベネズエラで出会った人たちはもちろん、一緒に行動をしてくれた通訳の方、そして日本から僕なんかを応援してくれた多くの人たちに感謝したいです」
人懐こい表情を見せ、乙坂は微笑んだ。
日本の球団をリリースされ、それでもあきらめずに夢を描き、誰も通ったことのない道のりで高みを目指している乙坂。伸るか反るかの日々。果たして2023年、どんな物語が綴られるのか、わくわくしながら見守っていきたい。
<メキシコ編とあわせてお読みください>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。