「ベネズエラのレベルで対応するには、いろんなスイングができないといけないなって練習していたんです。もっと内側からバットが出せれば、さらにいいバッティングができるはずだって。で、12月中旬だったと思うんですけど、相手チームにアクーニャがいて、話を訊きに行って『どうやったら打てる？』とシンプルに質問したんです。そしたらアクーニャは『じゃあ試合見ておくわ』って言ってくれて」

アクーニャ・ジュニア、MLB選抜として2018年には日本でもプレー　©JIJI PRESS

　元々DeNA時代もホセ・ロペスなど外国人選手と良好なコミュニケーションをとっていたが、メキシコでの経験も含め、このあたりのフランクなやり取りを見ていると、やはり乙坂はスタイルも性格もラテンアメリカの野球が合っていると感じられてならない。

「アクーニャは打席に一番近いベンチのところで見ていてくれて、あとで改めて話を訊きに行くと、かなり細かい部分までアドバイスをしてくれたんです。アクーニャ自身、体重移動を重視していたり、あと野球選手って右手がどう左手がどうって細かく考えがちなんですが、アクーニャは『しっかり両手で体のなかで振る』って話をしてくれました。僕自身いい感じでその感覚が出ていたので、すごく納得できたというか確信が持てた。それをシーズン終盤に向け馴染ませていった感じですね」

生まれて初めて僕が投げるボールで観客が湧いた

　そして外野守備においてもプロになって初めてのフィーリングを得ることができたという。

「メキシコは標高が高くてボールがよく飛ぶので追いつくので精一杯だったんですけど、標高が低いベネズエラに行くとすぐボールに追いつくことができて、すごく守備が楽しくなったんですよね。あと僕は、肩は悪くないけど強くもないといった感じなんですけど、関西でのトレーニングのおかげで投げる方でもいい感覚が生まれて、ボールがすっごく行くようになったんです。生まれて初めて僕が投げるボールで観客が湧くことを体験して、気持ちいいし面白なって」

　野球選手としてメンタル的にはもちろん、異国において確実にスキルアップもできた1年間だった。リーグが違うので、あくまでも参考にしかならないが、メキシコとベネズエラのスタッツを合算すると、134試合に出場し497打数176安打、3本塁打、打率.354、41打点、41盗塁という成績を残している。

ヒーローインタビューにも選ばれた乙坂　写真は乙坂智YouTubeチャンネル『NICORAZON』より

　プロとなり初めて500に迫る打数を積み上げ、非常にいい数字に思えるが、乙坂は「野球に関してはまだまだですよ」と言い首を振った。ベネズエラで見たトップクラスの選手や、これから目指す場所を考えれば、足りない部分が多いと感じているのだろう。

MLB球団から招待も、ある障壁が…

　さて気になる今後の去就だが、そのことについて尋ねると、乙坂は一瞬躊躇し、ゆっくりと口を開いた。

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