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宇野昌磨「あまり嬉しく思えない」の真意とは…フィギュア世界選手権の選考基準をめぐる舞台裏「男子3人はどうやって選ばれたのか?」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAFLO
posted2022/12/28 17:03
フィギュア世界選手権代表会見で、宇野昌磨は選考基準について疑問を呈した
「演技前のステファンは、僕どころじゃなくて、高志郎君のことを喜んでいました。でも僕もそれが嬉しかったです」
宇野が演技を終え、氷にひざを突いたままリンクサイドを見ると、ランビエルコーチは島田とハグしあっている。思わず宇野は2人を指差して、苦笑いした。
「演技後、パッとステファンを見たら、僕のほうを見てなくて。全然それを何とも思わず、むしろ嬉しく思いました」
宇野にとっては、自分の恩師であるランビエルコーチが、心底喜んでいる姿が何より幸せだった。そしてチームメイトと共に世界選手権に出られると思い、純粋に嬉しかったのだ。
メダリスト会見後、世界選手権代表が発表されると…
メダリストの記者会見が終わったのは、22時過ぎ。幸せな気分で壇上を後にした。
それから1時間もたたずに、選手達は控え室に集められ、世界選手権の代表が発表される。しかしランビエルのチームにとっては、ショックの大きい内容だった。
「達成感の表情、複雑な表情、悔しい表情の選手もいた。さまざまな思いのある発表でした」(竹内強化部長)
その発表後、選考理由の説明をされることもなく、すぐに記者会見が始まる。宇野にとっては、失望するランビエルコーチと島田の姿が脳裏に焼き付き、気持ちの整理がつかないまま、マイクを握ることになった。そして冒頭の発言が出た。
宇野が本当に伝えたかったこととは
発言は、声を絞るように、とても慎重だった。そして自分の発言で、隣にいる山本、友野が重苦しい空気になったことも察したのだろう。続く質問には「これ以上僕が言うことではないので、今のいっときの感情で変なことを言うとアレなのでコメントしません」と答えた。気持ちが抑えられず、頭が混乱している様子が伝わってきた。
宇野が伝えたかったのは、選考基準そのものへの苦言や、山本、友野への批判ではない。むしろ島田とコーチへの強い愛着心だった。「島田の全日本は素晴らしかった」ということ、そして「チームの皆で行きたかった」という感情が、思わず漏れてしまったのだろう。ただ宇野の真意とは別に、選考過程の明確化や、漏れた選手へのフォローに注目が集まったのは、今後への良い転換点になった。
島田、佐藤、三浦は2月の四大陸選手権に選ばれた。こちらも大きな国際ポイントを獲得できる大会である。そして山本、友野は、当然ながら実力で世界選手権代表を勝ち取った。2月と3月、日本男子はそれぞれの国際大会に全力で挑み、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向けた一歩をしるすことになる。
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