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「表に立つのは申し訳ない…」“競馬界から消えた天才”田原成貴が評論家として再起するまで「暗い部分があるからこそ、楽しく伝えたい」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byNaohiro Kurashina
posted2022/12/24 17:01
『Number』1061号で19年ぶりに小誌に登場した田原成貴氏。有馬記念を前に、あらためてロングインタビューを敢行した
長身を折り畳んだ美しいフォームで人々を魅了してきた天才騎手は、時代をリードするメディアの発信者でもあった。普段のファッションもお洒落で、何につけても最先端を行くようなイメージがあったのだが、実は、原稿は手書きだった。田原厩舎の公式サイトなどもあったのだが、自分でパソコンを操作することはなかった。
東スポ紙面とYouTubeで炸裂するユーモア
いわゆる「アナログ人間」だった田原氏が、先述した『Number』本誌の取材での撮影時、「額の汗はフォトショップか何かで消しておいてください」とカメラマンに言ったので、昔を知る筆者は、(成貴さんの口から「フォトショップ」という単語が出るとは)と、失礼ながら驚いてしまった。今は、原稿もキーボードで入力しているという。
「ワードは使っているうちに自然と覚えました。キーボード打つの、めっちゃ速いですよ。エクセルやパワーポイント、フォトショップやイラストレーターは専門家に教えてもらいました。まさか、アナログなこのおれがさ、デジタルの最前線のYouTubeという舞台に上がることになるとはね(笑)。本当に救われた。紙媒体だと文字数制限があるから、ストレスとイライラが溜まってくるんです。でも、YouTubeだと、言いたいことが言える。だからやめられない。同じことを紙媒体でやろうとしていたら、こんなに続かなかったと思います」
展開予想や馬券予想、レース後の反省会などの最中たびたび口にする「ファンタスティック」と「ジーニアス」はファンの間でお馴染みになったし、東スポ紙面での「グランアレグリアはガッキー(新垣結衣)」「横山武史は佐藤健」といったユニークな比喩も話題になった。なかでも、GIが行われた日の反省会で、出走馬が田原氏に降りてきて敗因などを語る“イタコ芸”は、「反則」とまで言われるほどの面白さだ。
「あれは、騎手のコメントのかわりに、おれが馬の気持ちになってどんな乗り方をされたのか代弁してやるよ、と面白半分でやったのが始まりなんです」