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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
KAIRIvs岩谷麻優、IWGP女子王座戦はエモーショナルな激闘に…KAIRIに聞く“インセイン・エルボーに込めたもの”「気持ちをぶつけ合いたかった」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2022/12/23 17:01
岩谷麻優とのIWGP女子王座戦に勝利し、初代チャンピオンに輝いたKAIRI
KAIRIによると、岩谷は「もの凄い勢いで受身を取る」。相手の技を真正面から受けて、吹っ飛んで、それでも立ってくるから相手にとっては驚異だ。「ゾンビ」と形容されることさえある。
「それは思いっきり受身を取ることで攻撃の力を逃がしてるんですよね。いかにも効いてるように見えるのに、それが思ったようなダメージにならない」
単に“細い体なのに打たれ強い”というだけでなく、そこには脱力も含めた受身の技術があるのだ。
「攻めるほうでも“キラー”な麻優さんできてくれました。やっていて“これだな”という感じがしました」
KAIRIの覚悟「これを乗り越えなければ次はない、と」
どちらが勝ってもおかしくなかったし、どちらもIWGPのベルトにふさわしい選手だった。あえて勝因を聞くと、KAIRIはこう答えてくれた。
「自分の性格というか、私はピンチに強い、ピンチをチャンスにできるタイプ。追い込まれれば追い込まれるほど馬鹿力が出るんですよね。特に今回はベルトについて賛否両論あったし、プレッシャーが凄かった。2連戦だし、しかもその直前に足を捻挫してしまって。
かなり追い込まれた状況だったんですけど、追い込まれたからこそ試合だけに集中できたというか、雑念が一切ありませんでした。これを乗り越えなければ次はない、と」
振り返ると、大事な場面では常に追い込まれていた気がするとKAIRI。
「赤いベルトを巻いたトーナメント(2015年)がそうでしたね」
この年、2月大会でメインのタイトル戦が顔面を拳で殴りつける“喧嘩マッチ”に。選手の処分とタイトル剥奪を受けての新王者決定トーナメントだった。
「あの頃は団体がなくなるんじゃないかとまで言われて。瀬戸際での闘いでした。白いベルト(ワンダー王座)は6回挑戦して負けて、もう後がないところで巻くことができました」
苦しい時期に団体を支えた。そういう時だから力が出た。“喧嘩マッチ”の後は選手会長に就任。“3人娘”は1大会2試合することも。会場の規模も、今とは比較できないほど小さかった。
KAIRIは長い間、観客と目を合わせていた
だが変わらないこともある。KAIRIは、IWGPのベルトを巻いた姿で、小さな会場で試合をしていた頃と同じことをした。
試合後しばらく経っても、インタビュースペースにチャンピオンが現れない。ライブ映像を確認したスタッフが「あ、まだリングにいますね」。メインを勝って締める時、KAIRIはエンディング後も席に残った観客1人ひとりを見て、目を合わせる。それで時間がかかるのだ。
「とにかく感謝ですね。プロレスは1人じゃできないので。相手がいて、お客様が見てくれてプロレスが成り立つんです。だから“一緒にこの空間にいてくれてありがとう”っていう気持ちでみんなの顔を見てます」
スターダムの歴史、アメリカでの経験。すべてがあって手にしたIWGPのベルトだ。
「記録より記憶に残る選手になりたい。そう思ってやってきました」と言うKAIRIだが、気がつけば記憶にも記録にも残る選手になっていた。
〈後編へ続く〉
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