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「歯もなくなって、顎もズレて、超地獄だけど…」スターダム王座戦で負傷…プロレスラー・白川未奈はそれでも“希望のベルト”を追い続ける
posted2022/11/10 11:02
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
「絶望の血の味がするよ」
口元を自身の血で赤く染めた白川未奈は、王者を見つめ、笑ってみせた。
思わず背筋がぞくりとした。
それは恐ろしさによるものではなく、「凄いものを見せつけられた」という戦慄だった。プロレスラーの強さを、あらためて実感した瞬間だった。
白川未奈にとって白いベルトは“希望”の象徴だった
女子プロレス団体・スターダムが初めて広島で開催したビッグマッチのセミファイナル。「白いベルト」ことワンダー・オブ・スターダム王座を保持する上谷沙弥に、白川未奈が挑戦した。
「『白いベルトのチャンピオンになれる』と信じることで、いろんなことを乗り越えることができました。私にとってこのベルトは、希望のベルトです」
この試合に向けた会見で、白川はそう語っていた。
彼女がスターダムのリングにやってきたのは2020年の10月。それから2年が経った。中野たむ、ウナギ・サヤカと結成した「コズミック・エンジェルズ」はアーティスト・オブ・スターダム王座(6人タッグ王座)の連続防衛記録を樹立し、2021年の『週刊プロレス』によるプロレスグランプリではベストユニット賞を受賞。同年には、白川個人としてもフューチャー・オブ・スターダム王座を獲得した。はじめは「お客さんを楽しませる試合がしたい」と思っていたが、試合を重ねれば重ねるほど、「強くなりたい」という気持ちは大きくなっていった。
プロレスラーになる前に身を置いていた芸能界では、努力だけではどうにもならない厳しい現実にも直面した。自身の過去について「泥水」や「ダサい人生」という言葉で形容することもあった。
そんな彼女は「後悔しないように」と30歳でプロレスラーになった。どんなときも希望はある。自分次第で人生を逆転させることができる。白いベルトは、彼女にとっていつしかその象徴になっていた。
「砂利道出身の人間でも白いベルトのチャンピオンになれるんだと証明して、同じような気持ちの人に希望を与えられたら」