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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
KAIRIvs岩谷麻優、IWGP女子王座戦はエモーショナルな激闘に…KAIRIに聞く“インセイン・エルボーに込めたもの”「気持ちをぶつけ合いたかった」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2022/12/23 17:01
岩谷麻優とのIWGP女子王座戦に勝利し、初代チャンピオンに輝いたKAIRI
その集中力が緊張感となり、見る者にも伝わって、時間の流れを速く感じさせたのだ。試合に向けての練習ではスタミナも意識したという。KAIRIは岩谷戦の前日、上谷沙弥が持つワンダー王座に挑戦している。
「大きなシングルマッチの連戦は『メイ・ヤング・クラシック』(2017年)以来だったと思います。それを乗り切るには、まず体力が必要。湘南に住んでいるので、砂浜を走るのが日課になりましたね」
コンディション作りだけでなく、対人練習も重要だった。KAIRIはスターダム所属ではないから、練習環境を整えるところからのスタートになる。
「対人練習をするなら、私の場合は出稽古になります。キックボクシングの『チームドラゴン』(かつて武尊など数々の名選手を輩出したジム)で前田憲作先生に教わったり。プロのキックボクサーと同じレベルのミット打ちをお願いしました。キツかったです。顔はゆでダコみたいになってたんじゃないかな(笑)。でもそのおかげで、息が切れた状態でもカットラス(得意技のスピニング・バックフィスト)を的確に打てるようになりました」
フィニッシュで“新必殺技”をあえて出さない理由
岩谷戦、カウンターで放つカットラスは何度も彼女を窮地から救った。グラウンドでも印象的な場面があった。首4の字固めに見えたのは腕も固める後ろ三角絞め。これは日本総合格闘技確立の貢献者、日本ブラジリアン柔術連盟会長でもある中井祐樹氏との練習で教わったものだ。
「自分は息を整えながら、相手のスタミナを削っていく。そのためには首系(絞め技)がベストだなと」
KAIRIは独自かつハイレベルな出稽古で決戦に備えたのだ。
フィニッシュはいつもと同じく、コーナー最上段から美しいフォームで放つインセイン・エルボー。1発目はカウント2で返されたが、すかさず2発目を決めた。このタイミングで新技を披露するという考え方もあったはずだが、KAIRIはそうしなかった。
「途中で出す技は新しいものを研究していますが、必殺技は変えないです。何年もかけて完成させたこだわりの技なので。WWEもそうなんです。トップ選手はみんな“この人はこれ”という必殺技を持っている。お客様はそれを見に来ているなと。でもインセイン・エルボーを返されるなんて、ここ数年なかった。あの瞬間はショックでした」
「さすが」KAIRIは岩谷をどう感じたか?
普段の岩谷はなかなかの“天然”であり、リング上では抜群のセンスとひらめきで観客を魅了する。いわゆる“天性”で闘うレスラーというイメージが強い。だが対戦相手から見た印象はまた違うようだ。KAIRIは言う。
「5年ぶりにシングルで闘った麻優さんは“さすが”というところだらけでした。技が的確なんですよ。顔なら顔、狙った場所を外さずに打ってくる。練習でも麻優さんはきちんとした受身を取るんです。うまく脱力していて」