「3連敗なんてするわけがないと言うくらい、勝って当たり前のチームでした。打線も凄かったですが、渡辺（久信）、工藤（公康）、郭（泰源）などいい先発投手が沢山いて、リリーフには杉山（賢人）、鹿取（義隆）、潮崎（哲也）……。今でいうセットアッパーの先駆けですよ。投手力が強いと戦い方ははっきりする。初回にランナーが出てバントで進めて1点取れば、相手チームはうちの投手陣から2点取らないと勝てない。1点の重みは相手チームに非常に大きくのしかかる。だから隙のない戦い方ができた。勝ちすぎて、“森監督の野球は面白くない”なんて言う人もいましたけど、やっている我々からしたらそんなもんじゃないでしょ、とね」

現役時代の辻発彦（1987年の日本シリーズ）　©BUNGEISHUNJU

「森さんがテトリスやゲームボーイを…」

　森監督は私情を挟むことを良しとせず、プライベートで選手と飲食を共にすることはなかった。しかし、だからと言って冷徹な存在ではなく、時に選手に温かみのある視線を寄せていたと振り返る。

「決して頭ごなしに何か言ったりはしない。当時、流行っていたテトリスやゲームボーイを森さんがやっていて。『俺もやってみたけど、面白いな。やっぱり選手の気持ちになってみなきゃわからないな』なんて言ってました。僕は（1988年から）選手会長をやらせてもらっていたので、監督から色々と相談されましたよ。選手の中で不満が出ていないか？　とか気を遣ってね。僕も『何かあったらこっちで解消しますから任せてください』って。そういうしっかりしたチームだったんです。ここぞという時は選手同士で『性根を入れてちゃんとやろうぜ！』って自然に言い合える空気があった」

©Yuki Suenaga

　“やりたければどうぞ事件”は忘れられない。監督就任から3年連続で日本一を達成した翌年の89年、3位に終わった森監督に当時の堤義明オーナーが「来年はどうするの?　やりたければどうぞやってください」と発言したことが大きな騒動になった。

「僕らも頭にきてね。『監督、絶対やめないでくださいよ』って言ったんです。『来年、日本一になって見返しましょうよ！』って。そして翌年、言葉通り日本一になった。よく選手が“監督を胴上げしたい”って口にするでしょ？　そういう気持ちが選手の中から自主的に出るチームは強くなっていく。僕らも森監督からその思いにさせてもらいました」

　思えば森監督は後の辻監督へ、“帝王教育”を授けていたのかもしれない。師弟関係の深い絆は、現在に至るまで続いていると言う。

名将3）野村克也…「僕には何も言わなかった」

　現役時代の晩年、「監督像」に鮮烈な彩りを加えたのが、ヤクルトで出会った名将・野村克也だ。1995年オフ、現役続行を希望して西武を自由契約になったとき一番に声をかけたのが野村監督だった。

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