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山本草太は演技中、何度も右拳を握りしめた 再出発の“1回転”からGPファイナル銀までの軌跡「1つ1つを乗り越えたうれしさが出てしまった」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/12/14 11:00
シニアとして初の出場となったグランプリファイナルで儀メダルを獲得した山本草太。演技中、右拳を何度も握りしめた本人に去来していた思いとは
だが、スケートをしたい気持ちは折れなかった。2017年の中部選手権で1回転ジャンプのみの構成で再出発する。そこから時間をかけてジャンプと滑りを取り戻していった。
「まだ成長できるかな」「この先あるのかな」
すんなりと歩んで来られたわけではない。練習の成果を大会で出せず、もどかしさを覚えるときがあったし、ときに失意を見せることもあった。2020年の全日本選手権を9位で終えたあと、こう語っていた。
「スケート年齢で言うと、後半というか折り返しに入ってきている中で、まだこのような演技しかできないんだなと思うのと、まだ成長できるかなという気持ちと、この先あるのかな、と」
それでも言葉を振り絞った。
「でも続けたい気持ちはあります。だったらしっかり努力しないといけないと思います」
ときに立ち止まりつつも前を向いて歩んできた。
昌磨君を目標と言えるところまで少し近づけたかな
その先にあったのが、グランプリファイナルのフリー、課題のトリプルアクセルを克服しての銀メダルだった。
優勝した宇野昌磨も、山本の銀メダルへの喜びを隠さなかった。2人は2014年ジュニアグランプリファイナルで宇野が1位、山本が2位とともに表彰台に上がっている。現在も切磋琢磨しながら練習に取り組む間柄だ。
「昌磨君がどんどん力をつけていって、目標や憧れという立場になりました。僕も時間はかかりましたけれど、目標と言えるというか、そういったところまで少し近づけたかなと思います。また昌磨くんを目標に僕もレベルアップしていけるように頑張って行けたらと思います」
そしてこう語る。
「今回のファイナルは僕はほんとうに、挑戦者の立場でした。あまり緊張感なく、思い切って演技ができました。全日本選手権はすばらしい選手がたくさんいるので、今回の結果は忘れて、また全日本に向けて頑張るだけかなと思います」
苦難を乗り越えてきたこれまでのように、一歩一歩、前を向いて、山本草太はこれからも歩いていく。
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