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山本草太は演技中、何度も右拳を握りしめた 再出発の“1回転”からGPファイナル銀までの軌跡「1つ1つを乗り越えたうれしさが出てしまった」
posted2022/12/14 11:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
何度も、右拳を握りしめた。演技中、ジャンプを決めたあとも、演技を終えたあとも。
フィニッシュのポーズのあとには、氷を何度もたたくようなしぐさも見せた。
思わず感情がむき出しになったのも無理はなかった。課題に打ち克った瞬間であり、何よりもここまでの競技人生を思えば、その姿はさらに深い意味を感じさせた。
初めてのファイナルで挑んだ3Aという壁
12月8日から10日にかけて、イタリア・トリノで行われたグランプリファイナルで山本草太が銀メダルを獲得した。
グランプリシリーズではフランス大会、NHK杯ともに2位で、初めてファイナルに進出を果たした。
ショートプログラム『イエスタデイ』ですべてのジャンプを決めるなどして2位につけて迎えたフリー。安定感のある演技を見せてきたショートに対し、フリーではフランス大会、NHK杯ともにジャンプでミスをしていた。中でもトリプルアクセルは、壁となってのしかかった。
迎えたフリーはラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』。最初の4回転サルコウを成功させると、続く4回転トウループ-3回転トウループ、4回転トウループと、3つの4回転ジャンプを成功させる。ここまではNHK杯とかわらない。
違ったのはここからだ。NHK杯では前半最後のトリプルアクセルからの連続ジャンプ、後半最初のトリプルアクセルともに失敗した。だがこの日は最初の連続ジャンプを成功させる。続くトリプルアクセルも、1/4の回転不足を示す「q」マークこそついたものの着氷。右拳を握りしめた。
何度も右拳を握りしめた理由
最後のジャンプを決めたあとには、右拳を揺らす。転倒など大きなミスのない、今シーズン最高の出来をこの舞台で示せたことを喜んでいるようだった。
フリーは179.49点、合計274.35点はともに自己ベストの得点だった。