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スズメバチに刺されて難病が判明…中日のドラフト6位・田中幹也が向き合う運命と、主力放出の最下位チームを変える「忍者」への期待
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/11 11:00
ドラフト6位で中日に入団する田中。難病を克服しプロでの活躍を目指す
肩、肘を含めて人生で初めて手術したとのことで、術後の違和感はあるようだ。そもそも黄色靱帯の骨化というもの自体は珍しくなく、約36%もいるとの研究データもある。しかし、神経が圧迫されなければ黄色靱帯骨化症とは診断もされない。福の場合もある日突然、骨化したわけではなく、左足がしびれて初めて判明した。それだけに手術が完治に直結するともいえず、症状が緩和した中でどう野球と向き合っていくかという闘いは続く。
安達、三嶋…難病と闘う選手が励みに
田中と福にとって支えのひとつとなるのは、同じ病気と闘ってきた同業者の存在だ。潰瘍性大腸炎は、オリックスの安達了一が2016年に判明。しかし、そのシーズンも含めた複数年で規定打席に達し、活躍を続けている。黄色靱帯骨化症も今年8月にDeNAの三嶋一輝が手術を受けている。ドラゴンズのチームスタッフにも闘病経験者がおり、元気に職場復帰している。
「今はできないこと、ドクターに止められていることは何もありません。(昨年の)夏場に落ちた体重も、秋には戻りましたし。まだ会ったことはありませんが、僕が使っているグラブがたまたま安達さんモデルなんです。もし機会があれば、ぜひお話ししてみたいです」
これも球縁なのだろうか。偶然にも安達と田中は同じメーカーの同仕様のグラブでプレーする。スズメバチに刺されたことがきっかけで、それまでの人生では聞いたこともなかった病名と向き合うことになった。野球よりもまず日常生活を考えた時期もあったが、1年後にはプロの門をくぐっていた。人生の先には何が待っているかわからない。
しかし、10万人に100人の割合で、自分と同じ苦しみを味わっている人がいることも知った。立浪監督が絶賛してくれた「元気」を前面に出し、疾走する「忍者」の姿を見せることが、どこかの誰かへの励みになっている。勇気と希望の灯台となることは、プロアスリートの使命なのだ。
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