炎の一筆入魂BACK NUMBER
「存在価値はなくとも存在してた…」由宇の妖精・白濱裕太が在籍19年、出場90試合のカープ人生で得たものとは?
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2022/12/05 06:01
2014年5月の西武戦でキャリア唯一の本塁打を放った白濱。この年は62打席に立ち打率は.161だった
「プロ野球選手として一軍でやってナンボという考えは変わらないと思います。だけど、僕みたいな存在がいるということをファンの人や記事を見た人に知ってもらえたら、存在して良かったなと、辞めてからは思っています。存在価値はないかもしれないですけど、存在していたというね」
白濱は存在していただけでなく、機会は少なくとも確実にチームに求められた。
捕手は特殊なポジションであり、すぐに代わりを務められる選手はそういない。一軍初出場もそうだったように、主戦にアクシデントが生じたときに白濱の出番が巡ってくる。万が一に備えることを続けた。
「気持ちの中で、それ以下はないというところを想定していた。二軍の試合だから点を取られてもいいなんて、一度も思ったことはない。試合の準備にしても、打者を知ることにしても、体の準備にしてもそう。勝っても負けても原因があるから、見えないところでやっていることもあった。1人で喜ぶこともあったが、1人で悔しがることの方が多かった」
スコアラーとしての再出発
捕手としての矜持を胸に過ごしてきた。捕球にブロック、送球と、捕手としてチームでもトップクラスの技術は誰もが認めていた。
シーズン中盤に一軍に昇格した2017年、捕手練習する白濱に向かって「2億円の守備!」という声が飛んだ。声の主はさらに続け「守備は2億円。でも打撃がマイナス1億9000万円」と笑った。
現役晩年に直球が130km台だったある元投手は、「まるで150km出ているんじゃないかっていう(ミット)音を出してくれていた」と感謝する。
引退後はスコアラーに転身する。誰もが認める技術を惜しむ声もある。ただ、本人は「キャッチャーミット以外はもう手元にありません」ときっぱり。第二の人生を見つめる。
「必要とされ、チームに残れるというのはありがたい。選手のときも表舞台に立つことは少なかったけど、裏方としてチームにまた貢献したい。スコアラーになるんだったら、白濱が一番だって言われたいし、そこを目指したい」
現役生活ではスポットライトを浴びることが少なかった。それでも、プロ野球界で19年生き抜いた。悔いはない。白濱祐太は広島のためにすべてを注ぎ、確かな戦力であり続けた。そんな生き方は、第2の野球人生でもきっと変わらない。
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