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大谷翔平だけが「MLB移籍で本塁打率がアップした日本人」の中で… 吉田正尚の成功可能性は?“欲しい時に安打を打てる”のは強みだが
posted2022/12/04 17:00
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama
筆者には「近年の強打者は台湾でブレークする」という持論がある。シーズンオフに台湾で行われる国際大会で活躍して注目された若手打者が、翌シーズン以降にNPBを代表する打者にのし上がるのだ。
2014年のU21ワールドカップでは広島の鈴木誠也が首位打者になり、日本ハムの近藤健介も注目された。2018年のアジアウィンターリーグでは、ヤクルトの村上宗隆の豪打が現地メディアにも大きく取り上げられた。
「絶対に安打が欲しい」時に打てる確実性
そしてオリックスの吉田正尚も2016年オフ、台湾でのアジアウィンターリーグで打率.556、6本塁打、29打点で三冠王。その猛打は日本でも取り上げられ「門田博光の再来」と報じられた。
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筆者はいずれの大会も現地で見ていたが、とりわけ客席最前列で実感した吉田のスイングの速さには驚いた。
翌2017年は腰痛のために前半戦を休場した。しかし7月に復帰すると打率.311を記録。翌年から5年連続で3割をマークし、ここ2年はOPSもリーグ1位。敬遠数も多く、パ・リーグでは最も恐れられる打者になった。
関西在住の筆者は吉田正尚の打席を数多く見ているが「ここは絶対に安打が欲しい」という状況では、極めて高い確率で安打を打つ。それもファーストストライクをフルスイングしてライナー性の二塁打を打つことが多い。また投手の球筋を良く見極めて、左翼に軽打することもある。
もちろん、日本シリーズで見せたように本塁打も打てる。広角に安打が打てるし、長打も短打も自由自在だ。彼には投手の球筋が完全に見えているのではないか。三振が極めて少ないことも、吉田の群を抜いた打撃精度の高さを物語っている。
だから、投手は吉田との勝負を避けたがる。この日本シリーズでも吉田は3敬遠を含め8四球を記録したが「できれば勝負したくない」打者なのだ。
来年7月15日に30歳になる吉田は、ポスティングによるMLB挑戦を表明した。球団はこれに理解を示している。さらに西武から森友哉を獲得しており、すでに「ポスト吉田正尚」に向けて動き出している感がある。
確かに吉田正尚は「NPBではもうやることがなくなった」のかもしれない。その点では22年前の大先輩、イチローと同じ道を歩もうとしている。
日本人野手にとってMLBは「厳しい世界」である
しかしながら、筆者は「バラ色の未来」だけを予想することはできない。2001年にイチローが海を渡って以来22年、NPB選手にとってMLBはすでに「未知の世界」ではなく、ある程度実態が分かった「既知の世界」になっている。
そして――とりわけ野手にとっては「厳しい世界」であることが分かっている。
イチロー以降、MLBに挑戦した18人のNPB選手の移籍前までの通算成績と、MLBでの通算成績を比較すると以下のようなる。HR/Gは1試合当たりの本塁打数。打率とHR/GのMLBでの増減率を%で示した。