その日、彼女は我々も立ち会ったうえでセルフィーを撮るつもりだったのかもしれないが、できるだけ素の自分を撮ってほしかったので取材のタイミングとは別の時間に撮影するようにお願いし、ロケーションもアングルも全て一任。ミラーセルフィーのサンプルをいくつか見せただけで、あとはカメラを手にしていること、という条件だけを伝えて別れた。

　ところが、その後カメラの調子が悪くなり、一度修理に出すことになったと連絡が来た。まだまだ時間はあるとタカを括っていたが、締め切りは近づいてくるし、何よりも高梨の試合が迫っていた。彼女の性格からして、試合モードに入ってしまうと悠長にセルフィーなど撮っていられるタイプではない。

　どうしたものかと気を揉んでいたところにメールが届いた。

　添付された写真は、意外なロケーションで撮った1枚だった。いや、我々にとっては意外なだけで、彼女にとっては確かに日常なのかもしれない。

　“沙羅ちゃん”のパブリックイメージとは少し違うエッジーな姿と表情。そこには26歳の高梨沙羅が見た高梨沙羅の姿が確かに写っていた。

「いや、写真めちゃくちゃよかったですね。彼女には他の選手のポートレートを撮ってもらうっていうのも面白いんじゃないかと思ってるんですよね」

　さて、アートディレクターの次なるアイデアはいつか実現するときが来るだろうか。

※高梨沙羅選手が撮影したこちらの1枚。発売中のNumber1062号にも見開きで大きく掲載されています。ぜひご覧ください。 

＜前編から続く＞

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「引退をずっと考えていました」高梨沙羅が明かす“涙のスーツ失格騒動からの8カ月間”「検査ルールに不明瞭な部分があると思います」