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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
ヤクルト戦力外ドラ1「僕の中では最後やと」名リリーフは妻子が見守る中…トライアウト現地で記者が聞いた“世に出てない話”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/11/10 11:00
トライアウト終了後、スタジアムに向かって挨拶する選手たち
バックネット裏には妻子がいた。シーズン中にソフトバンクに移籍するもわずか2試合で戦力外となった。1年の間に札幌から福井、福岡と拠点を移して、今は仙台で投げている。とはいえ体の動きはなめらかで、最初の打者である巨人・平間隼人を見逃し三振に切って取ったのは、実績を残したリリーバーとして見事だった。
「緊張なのか、寒さなのかわかんないけど、足がプルプルしていましたね。でもしっかりブルペンで球数を投げることができたので、投球としては良かったんじゃないですかね」
11人目の村上海斗は「巨人」とアナウンスされたが――緑色の見慣れないユニフォームでマウンドに上がった。
奈良学園大から2017年のドラフト7位で巨人に入団するもその時点では外野手。2020年戦力外となりトライアウトに挑戦するもオファーはなく、独立リーグ堺シュライクスに入団し、ここから大学以来の投手に転向した。
前回のトライアウトは打者で挑戦したが、今回は投手での挑戦。188cmの恵まれた体からの投げおろしで150km/hの速球を投げ、プレス席からも声が上がった。3人の打者を二飛、三振、三振で切って取ったが〈掘り出し物〉としてオファーがあるだろうか。
履正社→ヤクルトドラ1の寺島、井納が語ったこと
昼休憩前最後のマウンドに上がったのはヤクルトの寺島成輝である。
履正社高校に取材に行ったときに、ブルペンで投げていた。当時の岡田龍生監督は「絶対にプロに行く」と言った。2015年夏の大阪府予選の初戦で、大阪桐蔭と履正社が対戦した試合は1万3000人が詰めかけたが、当時2年生の寺島が先発し、負けたものの度胸満点の投球を見せた。
2016年のドラフト1位でヤクルトに入って背番号「18」を背負ったものの活躍できず。2人目の中日・三ツ俣大樹に中前打を打たれた。
「僕の中では最後やと思って、高校時代、プロに入ってからのことなど、いろんなことを思い浮かべながら投げました。感触は良かったとは言えないですが、すべて出しました」
昼休み後すぐのマウンドには巨人の井納翔一が上がった。
FAでDeNAから巨人に移籍したものの、2シーズンで12試合1勝1敗に終わった。筆者は昨年5月、甲子園での阪神とのファーム交流戦で井納を見た際、ストライクが入らず失意の表情を浮かべていた。今季は少なくともファームでは好成績を挙げていたのだが――最速147km/h、7球で3人の打者に対して被安打1で終わった。
「投げたのはまっすぐとスライダーだけです。投手は投げるのが仕事ですが、僕はできるだけマウンドにいる時間を短くしたかったので(7球で終わったのは)よかったです」
意外なほどに明るい声だった。