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「ジュニーニョと喧嘩して、罰金を喰らったことも…」今季で引退、鄭大世38歳が語る“エゴイスト”のサッカー人生「本当の自分は弱い人間でした」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2022/11/08 11:01
今シーズンでの引退を発表した鄭大世(FC町田ゼルビア)。自身を“エゴイスト”と表現する38歳に川崎フロンターレ、ドイツ、韓国、そしてまた日本と渡り歩いたサッカー人生を振り返ってもらった。(全3回のうち、第2回)
欲深さゆえの失敗は多い
鄭大世 ドイツのケルン時代(2012年1月-同年12月)に笑いながら冗談で言ったことが大きな問題となり、監督から「チーム全員がお前のために練習しているんじゃないんだぞ」と言われて、干されました。こういったことは、他にもあって。ピッチで退場処分を受けたのは1回だけですし、悪童のイメージはないと思いますが、実は問題児。ここで言えないことばかりです。人として大きな失敗も多かった。
――人としての大きな失敗を言える範囲内で話してもらえますか。
鄭大世 ジュニーニョとPKのキッカーのことで、もめたことがありました。2009年10月の大宮アルディージャ戦。僕がペナルティーエリア内で倒されて2本のPKをもらったんです。1本目はジュニーニョが蹴って外し、2本目は自分が蹴りたくてジュニーニョに譲らなかったんですよ。僕はあと1点で2桁ゴールだったし、プレッシャーからも解放されたかったので。「自分で蹴る」と言って、喧嘩になりました。試合後が大変でした。ロッカールームに戻ると、ジュニーニョが詰め寄ってきて「2度と俺に逆らうな」と怒鳴ってきたんです。それで、僕も我慢ならずに怒りがこみ上げ、ゴミ箱を蹴っ飛ばして壊してしまった。出場停止にはならなかったのですが、クラブに罰金を払いました。欲深さゆえの失敗は多いです。もしも、それがなければ、選手としてもっと上のステージに行けたかもしれません。感情をコントロールして、フロンターレ時代のパフォーマンスを安定して発揮できていれば、と思うこともあります。周囲の選手たちを見ると、淡々とプレーしていますよね。でも、僕にとっては、これが『ベスト』。キャリア終盤は「今日が最後になるかもしれない」と思うと、試合前に一人で泣くこともあったけど、後悔が残らないようにプレーしてきました。すると、自然とパフォーマンスも上がりました。
エスパルスで「最高に調子に乗っていた」
――メッセージの中では酸いも甘いも味わい、きれいごとではなく、「『みんなのおかげ』。みんなの支えで今がある」と言えると話していましたね。
鄭大世 昔は自分ですべてのゴールを決めたいと思っていたし、自分の実力で点を取ってきたと思っていました。チームメイトが点を決めても、僕は心から喜んでいなかったので。代表でもそうでした。気持ち悪いくらいのエゴイストですよね。フロンターレからはじまり、ドイツ、韓国と渡り歩き、そして清水エスパルスでキャプテンを務めた2017年がピーク。最高に調子に乗っていて、もうすべてを手に入れたくらいに思っていました。だから、人間関係もうまくいかなかったんです。あの頃は、すべて人のせいにしていた。俺がこのチームを変えてやると意気込み、仲間を怒鳴ったし、意見や要求ではなく、文句を言っていた。相手からすれば、かなり嫌だったと思います。
あるとき、僕が一人でジョギングしていると、チームメイトの西部洋平さんが一緒に走りながら教えてくれたんです。古株のグループから煙たがられ、陰口も散々言われていると。自分が調子に乗っていることは、自分では分からないものです。今なら分かりますけど。そのときはまだ僕も活躍していたから、嫉妬しているくらいにしか思えなくて……。