- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
415kmレースのクレイジーなウラ側…“日本最速ランナー”土井陵は何を食べている?「カップラーメンもスイーツも食べない」「主食は柿の種です」
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2022/11/05 17:06
土砂降りの中、静岡の大浜海岸でゴールする土井陵。「4日17時間33分」という驚異的な大会新記録でTJAR初優勝した
土井 グルコサミン、日頃から飲んでるんですよ。大学時代にバスケットで前十字靱帯を切って半月板も切除しているので、レースでは途中で痛みが出たり、腫れたりすることがあるんです。TJARでも唯一、膝だけが不安だったので、レース前にヒアルロン酸を打って、レース中はグルコサミン。効果についてのエビデンスはないらしいんですけど、僕には合っている気がします。
――それにしても、サプリの含有成分と効能がスラスラ出てくるのに驚きます。
土井 そうですか?(笑) こうしたサプリを定期的に摂り、水分をしっかり飲んでいたのがよかったのか、TJARではレース中、ゴール後もエンデュランスで起こりやすい浮腫みもほとんどなかったんです。補給が上手くいった結果だと思いますね。
――カロリーメイトや柿の種はTJAR選手に人気のアイテムですね。
土井 そうですね。柿の種は、僕は梅味ばかりです。脂質も炭水化物もミネラルも含まれていて、エネルギーもしっかり摂れる理に適った食事です。小分け一袋が131kcalなので、計算もしやすい。選手の中には食べやすいようにペットボトルに移し替えている人もいるんですけど、僕は個包装で持っていきます。でも、カロリーメイトは袋から出しますね。あの袋はかさばるしゴミも増えるので、ファスナー付きプラスチックバッグに、テトリスみたいに綺麗に並べて詰めます(笑)。
「朝起きて20km走るを7年続けていた」
――ここまでのお話で、経験から導き出した必要カロリーをもとに、総合栄養食やサプリメントを効果的に活用していることがわかりました。これだけミニマムな補給で走れてしまった強さの源はどこにあるのでしょう。
土井 限られた食料でも動けるようになったのはロングディスタンスを走るようになってからだと思います。スイッチが入ったのは大学卒業後、大阪市消防局に入局して走り始めてからで、とくに100マイル(約160キロ)を走るようになってから顕著になりました。トレイルランを始めた翌年、2014年のUTMFが初100マイルでした。身体を脂質代謝優位に変えるため、朝起きて何も食べずに20km走るルーティンを7年ほど続けていたことがあります。でもすごく身体が変わったといった実感はなかったんですよね。
――日頃から食事はかなり意識していますか?
土井 もともと健康志向でジャンクなものはあまり食べませんし、自分で料理するのも好きなので1日30品目は意識して食べています。弁当も自分でつくっていて、たまに家族の分もつくったり。消防士ってみんな一緒にご飯つくるんですよ。いまは違うかもしれませんけど、僕が入った当初はネギを切るところから修業が始まり「ネギ3年、出汁5年」と言われてました。うどんをつくれたら一人前だと(笑)。
――以前と比べると、だいぶ身体を絞った印象があります。
土井 みんなからそう言われます。大学でバスケットをしていた頃は体重が70kgくらいあったのですが、いまは60kg前後です。4年前に異動になって事務方から消防署勤務に変わったのも理由のひとつなのかな。24時間勤務になったので、朝走るルーティンは止めて夜勤明けに走るようになりました。
――長い距離を走る経験を重ねることで、エネルギー摂取量と運動量のバランスを推し量る感覚が鋭くなってきたところはありますか。
土井 僕はそれを身体の“順化”だと思っています。僕ら人間には環境や運動量に順応していく能力や感覚があると思うんですよ。それはたとえば「おにぎり1個でどれだけ走れるか」といった感覚ではなくて、食べなくてもこの距離なら走れるという感覚です。わかりますかね? 自分の身体の中にあるエネルギーと、それで出力できる運動量がわかるようになるというか。だから日常のトレーニングでも、「この距離だったら何か補給を持っていこうかな」とか「山で4時間走るなら300~400kcal持っていけばいいかな」と考える。そういう感覚が今回のTJARでも活かされたと思っています。
◆◆◆
論理的に方法論を探り、感覚でチューニングしながら、必要最低限の補給量で長時間動き続けるエネルギーを出力し続ける土井。後編では、ウルトラレースのもうひとつの要である「睡眠」に迫る。
<続く>