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「あのボールは1つの武器」ヤクルト小川泰弘32歳が日本シリーズ17球目で初めて打たれたヒット…オリックス太田椋21歳に投じた”痛恨の1球”
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/10/30 12:46
日本シリーズ第6戦で先発し6回1失点も敗戦投手となったヤクルト小川泰弘
杉本「心の準備はできていた」
「(吉田)正尚が敬遠されると思っていたので心の準備はできていた。日本一の打者の後ろなので、仕方ない。(中嶋聡)監督が正尚の後ろで僕を使ってくれている以上、そういうことやろうなと分かっているのでヒットが出て良かった」
右前に鋭いライナーが弾み、二塁から太田椋内野手が先制のホームを駆け抜けた。
1球に泣いた。
小川にとっては痛恨の一打となったが、実は痛恨の1球は、その前の太田の打席にあったように見えた。
ヤクルト小川が武器としてあげたボール
開幕戦を任された小川と中村のバッテリーにとっては、この日本シリーズは開幕の1試合だけではないことは想定済みだった。必ずやってくると想定していたのが、この第6戦の2度目の登板だった。
そこで何を考えるか。
バッテリーは初戦でしっかりと、次に備えた組み立てをしていたのである。
その軸になったのがある意味、今シーズンの小川を支えたボールだった。
「あのボールでストライクを稼げるようになり、1つの武器になっている」
本人がこう語っていた球速100㎞台のチェンジアップだ。
打席でこの遅球をいきなり待つには打者も勇気と覚悟がいる。その心理を巧みに突いて、シーズン中からカウント球として大胆に初球から投げ込み、相手を翻弄する武器にしてきた。
しかし、シリーズ初戦ではあえて、この球を“封印”した。打者24人に対して、使ったチェンジアップはわずか5球。真っ直ぐとカット、スライダーにフォークという王道の配球で、オリックス打線を封じ込んだ。
そうして迎えたシリーズ第6戦だった。