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5時間超死闘に観客「明日早番なのに~」今年も神回な日本シリーズ2戦おさらい… オリ中嶋監督の“物語”vsヤク高津監督の“執念”
posted2022/10/25 17:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Naoya Sanuki
ヤクルト高津臣吾、オリックス中嶋聡、セパを制した両監督が一筋縄でいかない指揮官なのは、昨年の日本シリーズでよくわかっていた。両軍ともに戦力は充実しているが、巨大戦力を前面に出して「馬なり」の采配をするはずがなかった。ともに知力を尽くした接戦になるのは必定。しかしたった2試合で、見る側も疲れはてた。
昨年に続く激闘となっている2試合について、観戦者視点であらためて振り返ってみよう。
<第1戦>
オ020000010|3
ヤ20110001x|5
<本塁打>
塩見1号、オスナ1号、村上1号(以上ヤ)
<バッテリー>
オ:●山本-比嘉-本田-阿部-平野佳/若月
ヤ:○小川-木澤-田口-清水-Sマクガフ/中村
山本由伸の「立ち上がり」を狙ったヤクルト打線
第1戦、オリックスは「アドバンテージの1勝」と言われる大エースの山本由伸を立ててくる。ファンは「投手4冠王の山本vs三冠王の村上宗隆」の対決に注目したが、おそらく高津監督はそうは思っていなかった。
好投手は「立ち上がりを狙え」は、昔からある戦術だからだ。例えば今年のペナントレースでは、17イニング連続パーフェクト中のロッテ佐々木朗希に対して、オリックスの1番福田周平は佐々木の投じる100マイル級の初球に対して、短く盛ったバットを「一、二、三!」で振って右前打を放っている。近くは今年のCSファイナル、ソフトバンクの三森大貴は第2戦、第3戦と試合開始の初球を二塁打して先制点に結び付けている。
エースの初球は速球をストライクゾーンに投げ込むものである――と考えれば、ヤクルトの1番、塩見泰隆が山本の初球を振ってくるのは、むしろ必然だったかもしれない。果たして塩見は「一、二、三!」で左前打、さらに盗塁。そしてオスナの三塁線ギリギリを抜ける安打で、四球で出塁した村上宗隆ともども帰ってきた。この際、左翼を守っていた吉田正尚が打球処理を誤っている。昨年の日本シリーズでも守備でもたついたが、早くもその懸念が露呈した。
「山本由伸物語」にはさせないという強い意志
中嶋監督の“まずは、エース山本で完勝”という「物語」は、序盤で崩れた。しかし、オリックスはヤクルト先発・小川泰弘の乱調に付け込みすぐに2点を取り返す。ファンは「ここから山本は立ち直るんだよね」と思っていただろうが、3回、また先頭の塩見が一発を打つのだ。これは高津監督の「『山本由伸物語』にはさせない」という強い意志が選手に乗り移ったようだった。