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5時間超死闘に観客「明日早番なのに~」今年も神回な日本シリーズ2戦おさらい… オリ中嶋監督の“物語”vsヤク高津監督の“執念” 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNaoya Sanuki

posted2022/10/25 17:02

5時間超死闘に観客「明日早番なのに~」今年も神回な日本シリーズ2戦おさらい… オリ中嶋監督の“物語”vsヤク高津監督の“執念”<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2年連続でシビれる戦いとなっている日本シリーズ。中嶋監督と高津監督の采配の妙も見逃せない

 ヤクルトの先発は予想通りのサイスニード。

 CSには出ていなかった山﨑福は走者を出したものの無難な立ち上がりだった。これに対してサイスニードは制球がやや不安で、3回にはシリーズ好調の7番紅林弘太郎に二塁打を打たれる。8番伏見寅威の二ゴロで紅林は三進。9番は投手の山﨑福。通算打率.235という打てる投手ではあるが――山﨑福はサイスニードの初球を軽く右前にはじき返し、「投手による先制点」で勢いをつける。

 その山﨑も2番宗佑磨の安打、ヤクルト右翼サンタナの拙守もあって生還した。

打つ手が上手くいったはずが9回に…

 ただ、中嶋監督は好調だった山﨑福を4回で降ろした。まだ68球。それでも山﨑福からマウンドを受け継いだ山﨑颯一郎は155km/h近い速球で2回1安打に抑え込み、敦賀気比時代「北陸のダルビッシュ」と言われた逸材が開花しつつある。5回にオリは1番に起用した安達の二塁打を足掛かりの1点。安達は二塁守備でもファインプレーがあった。

 “打つ手”が今日はうまくいって、何とかタイで大阪に帰れそう、中嶋監督ならずともそう思ったのだが……。どんでん返しは9回にやってきたのだ。

「今シリーズのクローザー」と中嶋監督が決めている阿部がマウンドへ。ヤクルトは先頭打者の宮本丈が二塁打、すっかりトリックスター然とした塩見が四球で歩いて、投手・今野龍太の代打・内山壮真は、まだ2年目の控え捕手だ。今季4本塁打しているとはいえ――内山は堂々の本塁打を左翼に打ちこむのだ。

 ベンチには内山が入団の時から面倒を見ていた嶋基宏がいる。このほど現役を引退してコーチ専任となったが、嶋も驚いていたのではないか。オリックスとしては、短期決戦である今シリーズで今後、阿部の起用は難しくなったのは痛手だろう。

「今日はうちのもの」という中嶋聡監督の「物語」を、高津臣吾監督はまたしても打ち消した。

 延長戦、両軍は合わせて6人をマウンドに上げ、救援投手の「虫干し」のようになった。この事態は両監督にとっても想定外ではあろう。

「私明日は早番なのに~」と嘆いているお客さんも

 夜10時を超えて「鳴り物を使った応援はおやめください」というアナウンスが流れる。前日より8人多い2万9410人のファンの1割程度はこの時点で帰っていたが、さざ波のような拍手が巻き起こる野球観戦は、実に心地よい。

「夜11時以降は18歳以下の方の野球観戦はできません」と言うアナウンスが流れ、家族連れが帰宅する姿もあった。

 12回にはヤクルト木澤尚文の暴投で、オリックス代走・佐野皓大がホームを駆け抜けたが、ボールはベンチに入りボールデッドでテイクワンベースとなり三塁に。このあたり、ツキもヤクルトの味方だ。

 終わったのは午後11時7分、両軍も疲れただろうが、見ている観客もつかれた。前のお客は「私明日は早番なのに~」と嘆いている。それでも最後まで見届けるのが野球ファンである。

 落語では「酒がない国に行きたい二日酔い」という川柳が酒の噺のマクラで振られるが、昨日などは「野球がない国に行きたい延長戦」というところか。しかしまた見たくなるのだ。

 ことごとく「物語」をつぶされた中嶋監督は「大阪ではそうはいくか」とこぶしを握り締めていることだろう。

 京セラドームではどんな「物語のつぶし合い」が待っているのだろうか?

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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