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西武ドラ1蛭間拓哉は2年前…“早大野球部を退部寸前”だった?「ただただ申し訳ないと」「4年生のために頑張るだけでした」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakeshi Shimizu
posted2022/10/26 11:01
西武ドラフト1位の蛭間拓哉。走攻守に力感あふれるプレーはスケールの大きさを感じさせる
「サードコーチの杉浦は泣いていて、それを見た蛭間もセカンドを回って泣いて。杉浦の“蛭間を戻してやってください”というのがなければ、なかった話です」
指揮官は当時の優勝インタビューで「いろんな野球を見てきたが、こんな試合は始めて。奇跡です」と話していた。筆者もその時点で事件を知っていただけに、蛭間の強運、どん底から這い上がってきた真面目な人間性が実を結んだと感じた。
謹慎になったことは自身の過失であり、挫折だ。でも、それがなかったら――ひたむきな練習をしていないかもしれない、と蛭間はいう。
「2本のホームランもなかったかもしれないですね?」
「そうだと思います」
こう頷いた。
今季苦しんでいる蛭間は、最後の早慶戦で輝けるか
その一方で小宮山監督は蛭間は手のかからない選手だった、とも証言する。
「プロは誰も助けてくれない、自力で何とかしていく世界に飛び込むんだから。試行錯誤して持ちうる能力をどう発揮するか自分で道を切り拓いていくものがプロに行ける」
迎えた秋季リーグで蛭間は苦しんでいる。プロ志望届を提出する4年生にとって最後のアピールをする場だが、開幕戦での3三振スタートに始まり、気負って結果が出ない。第6週、4カードを終わった時点で、ヒットはわずか4本、打率.143である。
「今シーズンは力が入ってますかね。抜こうと思っていろいろ試してるんですが力んでしまう。ラストシーズンはめちゃくちゃ、難しいです」
気負いがあるのは、1年前の秋に自身のミスで優勝を逃した苦い記憶があるからかもしれない。3年秋の早慶戦。あと1勝で早大は優勝だったが、最終戦の7回に自身の悪送球で引き分けに持ち込まれ、今度は慶大が優勝を飾った。
「2本のホームランなんて比べものにならないくらい、自分のエラーで負けた悔しさの方が大きい」
その雪辱はできるか。あとは学生生活最後の試合、早慶戦を残すだけになった。
「自分のことはもう、どうでもいいです。チームが勝つことだけのためにやります」
道は開いた。あとは進むだけだ。