猛牛のささやきBACK NUMBER
「育成では行かないと書いていたので…」2年前のドラフトで悩んだ大卒投手がリーグ連覇に貢献するまで「オリックスに来たのは正解だった」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2022/10/12 11:01
7月に支配下登録を勝ち取り、オリックス救援陣の新たな柱としてリーグ連覇に貢献した宇田川優希(2020年育成ドラフト3位)
「(8月13日のソフトバンク戦で)サヨナラホームランを打たれた時に、まっすぐには自信はあるけど、頼り過ぎたら痛い目に遭うなと思いました。平野さんが、フォークをカウント球として使ったり、ワンバンするような高さに落として三振を取ったり、投げ分けているのを見て、自分もフォークをカウント球に使うことを思いつきました。以前はまっすぐで空振りやファールを取って(追い込んで)、決め球のフォークで落とす、ということだけだったんですけど、フォークの投げ分けを意識するようになって投球の幅が広がりました」
二軍にいた頃、捕手の松井雅人に「フォークが大きく揺れて軌道が読めないから、ランナーが三塁にいる時には要求しにくい。変化の小さいフォークもあったらいいんじゃない?」とアドバイスされた。それから試行錯誤し、ストレートに近い軌道で小さく変化するフォークを習得していた。
平野の姿を見て、その球をカウント球として早速活用。剛腕のイメージだが、柔軟な対応力も備えている。間違いなく、2連覇に欠かせなかった選手の1人だ。
「オリックスに来たのは正解だったなと思いました」
優勝争いの中、充実感あふれる表情でそう語っていた。
知られざる牧田副部長の“葛藤”
今の宇田川の活躍は、牧田が背負っていたものを少し軽くしたかもしれない。
2年前のドラフトに関して、牧田には悔恨の思いも残っている。育成指名から契約に至るまでの間に、ネット上では、宇田川や佐野が育成では入団しないと意思表示をしたことについて、心ない批判もあった。
「我々プロ側というか、僕が表に出て叩かれるのはしょうがないかと思いますけど、うちが指名したことで、まだ21、22歳の学生が、ああいうふうに叩かれてしまったことはすごく申し訳なかったと思っています。それは、言葉では言い表せないものがありますね。
でも本人の頑張りで、今こうして大活躍してくれている。『あの時プロに来てよかった』『最初がオリックスでよかった』と思ってもらうことが、僕としては一番大事にしているところですし、本人たちがいい思いができれば、僕らも嬉しいですね」
宇田川は満足することなく、さらなる野望をのぞかせる。
「信頼を得て、いずれはクローザーをやりたいという気持ちもあります」
そう言ってから、「まだそこまでの信頼はないので、まだ早いですけど、いずれは」と少し遠慮がちに付け加えた。
9月20日のロッテ戦では少しそわそわしながら9回を迎えていた。
「平野さんがいなかったので、『今日は誰がクローザーやんのかな?』と思って。僕か(山崎)颯一郎か、どっちかかな?と思っていたんですけど、そこは颯一郎が行ったんで、やっぱりまだまだだな、と思いました」
謙虚に学びながらも、自分の気持ちに正直に。大胆不敵な新星が、クライマックス・シリーズでもキーマンになりそうだ。
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