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「平壌にいる仲間たちのことは気になる」まさかのW杯予選辞退…北朝鮮代表Jリーガーが語る夢の終焉「でも、もう悔いも未練もない」
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byJ.LEAGUE
posted2022/10/06 17:00
FC琉球の最終ラインで奮闘する李栄直(31歳)。W杯出場という夢は奪われたが、今はJ2残留に向けて全力を注いでいる
理由は新型コロナウイルスの感染を危惧してのこと。2次予選の5試合を消化した時点で2勝1敗2分のグループ4位。最終予選進出の可能性は十分に残されていたが、協会が辞退を申し出たことで、既に行われた試合も含めて“無効扱い”となったことをAFC(アジアサッカー連盟)が発表した。
世界的にコロナが蔓延していたとはいえ、予選を辞退した唯一の国が北朝鮮だった。李の言葉からは、コロナ禍という“不可抗力”によって代表戦から遠ざかっていることを少し悔やんでいるような様子が窺えた。
「最終的にレバノンが最終予選に進んだのを考えたら、最後までやりたかったのはあります。自分たちは2次予選でホームに迎えて2-0で勝っていますからね(19年9月5日)。代表チームが長らく活動していない時に、どれだけ“代表”というものが自分のモチベーションになっていたのかは感じます。これがあるからサッカー選手やってきたんだなと感じる部分もありました」
“特別なもの”がないと認められない
李のプレーは非常にクレバーだが、ピッチの中では熱くなるタイプだ。特に代表戦となるとハードなプレースタイルが垣間見える。
17年11月、タイで開催されたアジアカップ最終予選のマレーシア戦の取材に行った時のことだ。北朝鮮代表のチームスタッフが、李についてこう言っていたのを思い出す。
「ヨンジはピッチで熱くなりすぎるから、カードをもらわないように気を付けろと言っているのに……。でも彼はなかなか聞かないんだよ(笑)」
187センチの長身は北朝鮮代表選手の中でも大きな部類に入るため、かなり目立つ。彼の本来のポジションはボランチで、代表では攻守のつなぎ役となり、激しい球際、時折みせる強烈なミドルシュートもチームの武器となっていた。
日本で生まれた在日コリアンの李は、ルーツは朝鮮半島にあるとはいえ、北朝鮮生まれのチームメイトからすれば“外国人”に等しい。つまり、監督やスタッフ、選手たちが認めるほど“特別なもの”がなければ、本国の代表で簡単に主力にはなれない。実力主義の世界で、李は信頼を勝ち取るために必死に体を張った。その熱い姿勢は、いつしか代表スタッフとチームメイトに認められるようになった。