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「たとえ今日僕が負けたとしても君のために喜べた」フェデラーとナダルの美しい18年間の友情物語「ロジャーは誰よりもエレガント」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2022/09/23 17:01
2020年、南アフリカでのチャリティーマッチに登場したフェデラー(右)とナダル。二人の美しきライバル関係はいつから始まったのか
さらに大きなサプライズが翌週に訪れる。出場予定のバーゼルに移ったナダルだが、膝のケガで欠場せざるをえなかった。すると、宿泊する部屋にフェデラーが突然訪ねてきた。バーゼルはフェデラーの故郷だ。ナダルは驚きながらも部屋に招き入れ、20分ほど話したという。
ジェントルマンでいることを学んだほうがいい
フェデラーはナダルにマドリードでの様子を聞き、ナダルはフェデラーに翌月の上海のマスターズカップには間に合いそうかと聞いた。当時24歳のフェデラーは19歳のライバルの偵察に行ったのだろうか。もしそうなら、二人の友情はこんなに長く続かなかったに違いない。フェデラーの気さくさ、やさしさ、飾らなさを知る出来事は、その後も数え切れないほどあったことだろう。そして、フェデラーを追い続けるナダルの人間形成とそのライバル関係に影響を与えたはずだ。
翌2006年のローマの決勝戦、フェデラーがトニのコーチングに苛立って声を荒らげる場面があった。5セットマッチの最終セットをナダルがタイブレークで制したが、数日後、ナダルはスペインのメディアにこう語ったという。
「彼は負けたときでもジェントルマンでいることを学んだほうがいい」
バーゼルでの出来事を知っているのと知らないのとでは、その言葉も随分と聞こえ方が違う。もう二人の間には友情が芽生え、ライバルとして認め合い、なんでもフランクに言い合える仲だったのではないか。
今日僕が負けたとしても君のために喜べただろう
ナダルはフェデラーの王者時代に3年間も2位であり続けた。2008年の8月についに順位が入れ替わり、間もなくそこにジョコビッチが割って入ってくる。フェデラーもナダルももう終わりだと囁かれた時期もあった。しかし、沈んでは這い上がる彼らの戦いぶりとその関係はファンを決して飽きさせることなく、月日は流れて2017年の全豪オープンで劇的なドラマが生まれる。約6年ぶりにグランドスラム決勝での対決を実現させ、膝の怪我から復帰したばかりのフェデラーが4年半ぶりにグランドスラム優勝を遂げた。やはりグランドスラムのタイトルから2年半遠ざかっているナダルに、優勝スピーチでフェデラーはこう語りかけた。
「僕たちがまたこんな舞台で戦えるなんて夢のようだ。たとえ今日僕が負けたとしても君のために喜べただろう。テニスに引き分けがあるなら僕は喜んでこの勝利と君と分け合うよ」
あれから5年8カ月。フェデラーが現役最後の舞台に選んだのは、自身が中心になって2017年に発足させたレーバーカップ——欧州選抜と世界選抜が戦うチーム戦だ。9月23日に開幕する大会にはナダルもいる。ネットの向こう側ではなく、同じベンチに、味方として、仲間として。
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