小屋主審がオンフィールドレビューに向かうと、大迫は三浦にボールを渡すよう求めた。「わかってるだろう？」という様子の大迫と、「まだ決まってないから焦るなよ」という様子の三浦の根競べは、大迫にボールが渡る形で決着した。

残留に大きく前進した神戸、一方のガンバは…

　ボールを手にした大迫は、場内に流れるリプレイ映像を確認すると、ペナルティスポットへ歩いて行った。映像をチェックした小屋主審がジェスチャーとホイッスルでPKになったことを示すとガンバの選手たちは抗議したが、スポットに立つ大迫は、周りの喧騒からそこだけ切り離されているかのように集中したままだった。

　そして83分、ボールをセットした大迫はじっくりとしたモーションからネットを揺らし、神戸が同点に追いついた。最初のアピールから5分が経っていたが、時間によって思いが途切れることも、焦りに変わることもなかった。

　その後、90＋3分に逆転ゴールを決めてみせた大迫。間違いなくプレーによってチームを救ったヒーローだが、プレーだけでなく気持ちで「半端ない」ところを見せたPKまでの流れが、強く印象に残った。

　直接対決に勝利した神戸は順位を13位に上げた。勝ち点差が詰まっているため、まだまだ安心できないが、息を吹き返したことは確かだ。イニエスタや大迫のような、プレーだけでなくメンタル面でも抜きんでている選手が、チーム蘇生の立役者になった。

　ガンバ戦をスタンドから見守っていたイニエスタは、試合後ピッチにやって来た。吉田監督と肩を組み、サポーターと共に神戸讃歌で勝利を祝った彼は、自分がそういった姿を見せることがチームにとってプラスに働くことを知っているに違いない。今度こそ、点ではなく線としての復調を果たしたいチームを、キャプテンの振る舞いが後押しする。神戸は残留に向かっている。その場に居合わせた全員にそう思わせるエンディングには、やはり彼の姿も必要だったのだ。

　敗れたガンバは、神戸に、残留のために必要なものを示された形となった。しかし巡り巡って、それが良い影響をもたらすかもしれない。

　試合後、東口は落ち込んで座り込んでしまった福田を立たせた。残り4節。残留圏内の15位との勝ち点差はわずかに2。まだ終わりではない。次は自分たちの番だ。

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