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「あんちゃん座れ」ケンカで無双“大分の龍二”が圧倒された千代の富士の迫力とは? 元大関・千代大海の九重親方が振り返る師匠との出会い
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph byBUNGEISHUNJU/Ichisei Hiramatsu
posted2022/09/10 11:00
元大関・千代大海の九重親方にロングインタビューを実施。前編では、“大分の龍二”時代や師匠(元横綱・千代の富士)との出会いについて話を聞いた
“ウルフ”と初めての対面「この人には殺される…」
――力士を志す前に、そんな壮絶なやりとりがあったのですね……。その後、どのように九重部屋に入門することになるのでしょうか。
平成4年の10月でした。金髪に剃り込みを入れ、リーゼントをバシッと決めて挨拶に行ったんです。「失礼のないように」って、これはもう不良の礼儀でしたから(笑)。母といとこのお兄さんと3人で出向き、師匠の部屋に通されたら、衝撃が走りました。後ろの窓ガラスから逆光が入っていて、胡坐をかいている師匠に後光が差しているようだったんです。
「あんちゃん座れ」と言われ、正座して、握りこぶしを腿の上に置いて。僕はドキドキしているのに、隣の母はニヤニヤして「千代の富士がいる……!」なんて言っていたので、肝の据わった母ちゃんだなと思いました(笑)。1年前まで現役だった師匠は、まだ体が大きく眼光も鋭くて、いままで見てきた“その筋”の人たちとはまったく違う、「この人には殺されるな」という感覚がありました。柵のない状態で、ライオンと遭遇したような……。「やっぱりすごいな、千代の富士は!」と圧倒されましたね。
――先代と初めて対面した際の会話を覚えていますか?
まず、「あんちゃん、何しに来たの?」と聞かれたと思います。「相撲界に入りたいです」「どうして?」「親孝行がしたいです」。するとそれまで眉間にしわを寄せていた師匠が、ニコッと笑ったんです。そしておふくろを見て、「この子は頑張れそうだね」と言いました。その言葉の響きが優しくて、これは入門が決まったな、と早合点しました(笑)。
でも「ありがとうございます!」と頭を下げたら、「その前に、まずその頭をどうにかしてこい!」って。「え! これダメっすか。はい、わかりました」と(笑)。そのときは入門が認められなくて、大分に帰って頭を剃り、次の日の朝もう一度出直したら、師匠は「剃ることはないだろ!」と言いながらも喜んでいましたね。この人の下で一からやり直そう、いままでの自分とはもう違うんだという気持ちで、頭を丸めてリセットしたんです。<#2、#3へ続く>