「幼かった息子を抱きかかえていたある日、彼の母親の兄弟が私に向かって発砲したんだ。左足を撃ち抜かれ、リングに上がれなくなった。生活費を工面するために私ができたことは、ドラッグの売人。他に何も思いつかなかった。5年余り刑務所で暮らしたが、自分の教養の無さを思い知らされたね。教育ってのは大事だと叩き込まれたよ」

　正式に入籍した訳ではないので、「妻」とは表現せず、シニアは「息子の母親」と説明した。彼はジュニアが星条旗を背負って母国開催の五輪に出場する様を、刑務所内でTV観戦するしかなかった。息子とは度々電話でやり取りし、戦い方についてのアドバイスを送る。当時、ジュニアは、「オリンピックチームのコーチよりも父の指摘の方が的確だ」と話した。

　親子関係は非常に上手くいっているように見えたが、WBCスーパーフェザー級タイトル5度の防衛に成功した後、練習法を巡って2人は対立する。息子は父をトレーナーから外し、再び叔父と組むようになった。

同じく1998年撮影の父と子のツーショット　©Getty Images

なぜメイウェザーは“人気に欠ける”王者だったか？

　2001年1月20日、デビューから24連勝（18KO）と白星を伸ばしたメイウェザー・ジュニアは、33戦全勝27KOで同じ歳のディエゴ・コラレスと対峙する。ボブ・アラムが、1981年9月に自身が手掛けたWBA/WBC統一ウエルター級タイトルマッチ、トーマス・ハーンズvs.シュガー・レイ・レナード戦の再来と謳い上げた無敗対決だったが、20年前規模のメガファイトとはならなかった。メイウェザー・ジュニアはコラレスを第10ラウンドに葬り、自身の株を上げる。

　とはいえ、これといったライバルがいないことが、彼にとって痛手だった。ハーンズvs.レナード戦や、コラレス戦の2年前に行われたWBC/IBF統一ウエルター級タイトルマッチ、オスカー・デラホーヤvs.フェリックス・トリニダード戦のような、実現そのものが話題となり、どちらが勝つか予想できずにスリリングな展開となるファイトの無いまま、パウンド・フォー・パウンドKINGとなったのがメイウェザー・ジュニアだ。強過ぎるが故に人気に欠けるチャンピオンであった。

　どんな試合でも余裕を見せるメイウェザー・ジュニアは、リングサイドで実況を続けるアナウンサーや解説者に話し掛けながら戦ったりもしたが、ファンが望むのは、全身全霊をかけて戦う姿であり、分かりやすいノックアウトだった。

2001年1月20日、33戦全勝27KOのディエゴ・コラレスと無敗対決。10回TKO勝ち　©Getty Images

父親に「このクソ野郎！」

　WBCスーパーフェザー級タイトルを8度防衛した後の2002年4月、WBCライト級王者、ホセ・ルイス・カスティーリョに判定勝ちして2階級を制するも、一部のメディアやファンから判定に対する不満が漏れる。勝利者コールを受ける新チャンピオンにはブーイングが浴びせられた。8カ月後のリターンマッチで防衛に成功したメイウェザー・ジュニアは、試合後の記者会見で涙を流しながら言った。

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