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「ヤクルトはすでに目一杯、落ちてくる可能性は…ある」10ゲーム差から逆転V、2011年落合ドラゴンズ“扇の要”谷繁元信40歳が狙いを定めた「4連戦」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/09/22 06:02
落合中日の「扇の要」としてチームを支えた谷繁元信。2011年はケガがあり、戦列を離れリハビリをしながら優勝を目指した
どんな状況にいるだれにとっても…
もう7月なのだ。シーズンは半分を消化し、自分が離脱している間にチームは首位ヤクルトに差を広げられつつあった。5、6、7……とゲーム差は日ごと開いていく。それなのに連覇を狙う中日ドラゴンズの正捕手はまだ走ることさえできないのだ。
ただ不思議と谷繁の心は静かだった。
《今、自分にできることを必死にやるしかない。結局は、どんな状況にいるだれにとってもそれしかないじゃないか》
そう考えることができた。焦りはなく、諦めもない。振り返ってみると、そんな心境になれたのはこの年に起こった巨大な日常の崩壊を目の当たりにしてからだった。
これ、揺れてますよ!
3月11日。午後3時を迎える頃だった。
その日、開幕への調整を終えた谷繁はナゴヤ球場のロッカー室でシャワーを浴びていた。目を閉じて洗髪したシャンプーを流していると急に頭の中がグラグラと揺れた。
《俺は目眩を起こしているのか……》
咄嗟に手を伸ばし、つかまれそうなものを手探りしていると隣にいた選手が叫んだ。
「これ、揺れてますよ!」
急いで体を拭いて手近なものを羽織り、球場の外に出ると、他の選手やスタッフたちがもうそこに集まっていた。
《ああ、地震だったのか》
谷繁は少しほっとしたような気持ちになったが、ふと上を見て戦慄した。