- #1
- #2
Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
「ヤクルトはすでに目一杯、落ちてくる可能性は…ある」10ゲーム差から逆転V、2011年落合ドラゴンズ“扇の要”谷繁元信40歳が狙いを定めた「4連戦」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/09/22 06:02
落合中日の「扇の要」としてチームを支えた谷繁元信。2011年はケガがあり、戦列を離れリハビリをしながら優勝を目指した
もし自分にできることがあるとすれば…
大切な人を失い、家を奪われ、寒さに震える人たちに野球が何を与えられるというのか。万が一、与えられたとしても、その実感は受け取る人たちの胸の内にしか存在しないはずではないか。
《言葉にするのは簡単だ。軽すぎる。もし自分にできることがあるとすれば……その人たちの目に映ったとき恥じない選手でいるしかない。そのために今できることを必死にやっていくしかない……》
逆に言えばその無力感がやるべきことを明確にし、谷繁から諦めを奪った。
7月のうだるような太陽の下、延々と階段の一歩を踏めたのはそのためだ。シーズン真っ只中に走ることさえできない。そんな状況でも絶望しなかったのはそのためだ。
さらに独走されてしまえば終わりだ。ただ…
ようやく谷繁が一軍に戻ったのは7月の終わりだった。ペナントレースは残り70試合を切り、首位ヤクルトとの差は10ゲーム近くにまで開いていた。
ただ相変わらず心は静かだった。焦りも諦めも見当たらなかった。根拠のひとつは9月末に組まれたヤクルトとの4連戦だった。場所はすべて本拠地ナゴヤドーム。
プロ野球はカード3連戦が基本だが、この年は開幕が半月遅れたことによって変則的なスケジュールが発生していた。
《そこまでに、さらに独走されてしまえば終わりだ。ただヤクルトはすでにめいっぱいのようにも見える。優勝経験のあるメンバーは宮本慎也くらいだ。落ちてくる可能性は……、ある》