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「ヤクルトはすでに目一杯、落ちてくる可能性は…ある」10ゲーム差から逆転V、2011年落合ドラゴンズ“扇の要”谷繁元信40歳が狙いを定めた「4連戦」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTamon Matsuzono
posted2022/09/22 06:02
落合中日の「扇の要」としてチームを支えた谷繁元信。2011年はケガがあり、戦列を離れリハビリをしながら優勝を目指した
死者・行方不明者の数が刻々と増えていく
球場の外周ネットを支えるコンクリート柱が折れそうなほど左右に揺れていたのだ。谷繁はこれまで生きてきてそんな光景を見たことがなかった。
《何かとんでもないことが起きたんだ》
それから翌日のオープン戦に備えて新幹線で大阪に入った谷繁は、そこで事態が想像をはるかに超えていることを知った。
ホテルの部屋でテレビをつけると映し出されていたのは家もビルもすべてをなぎ倒し、逃げまどう車や人を飲み込んでいく巨大な波だった。死者・行方不明者の数が刻々と増えていく。突然、日常が崩壊していく惨劇をぼう然と眺めながら谷繁の思考は野球から離れていった。
はっきりいって野球どころじゃない
オープン戦は中止となり、ほどなくしてプロ野球の開幕延期が決まった。
球音の消えた春。
谷繁の胸にあったのは無力感だった。
こんな時こそスポーツで勇気を――。
そう言う人もいた。マイクを向けられ「ぼくらのプレーで東北の人たちを元気づけたい」と口にする選手もいた。ただ谷繁はとてもそんな気にはなれなかった。
だから番記者には正直にこう言った。
「はっきりいって野球どころじゃない。事が大きすぎる。自分のプレーで何かを与えるとか、そんなことは言えない……」