甲子園の風BACK NUMBER
ドラ1候補・浅野翔吾「57球で空振り1度だけ」驚異の選球眼を得た真相 以前は「イラッと」「チームの雰囲気を悪く」したが…
text by
間淳Jun Aida
photograph byNanae Suzuki
posted2022/08/24 06:00
浅野翔吾は近江・山田陽翔から放った弾丸ライナーでのバックスクリーン弾など衝撃的なアーチを3本放ったが、選球眼も高校生離れしている
近江との準々決勝。大会屈指の好投手・山田陽翔投手からホームランを含む3打席連続ヒットで迎えた第4打席。1アウト一、二塁の場面で打席に向かうと、2点リードしている近江が選んだのは申告敬遠だった。
セオリー破りの作戦は、数字には表れない浅野選手のすごさを如実に示している。
「走者が一、二塁で、山田投手だったので申告敬遠はないかなと思っていたので、少しびっくりしました」
近江・山田との対決でも成長を見せた部分とは
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勝負を避けられても怒りはない。頼りになるチームメートがいる。表情を緩めた浅野選手は一塁へ向かった。
浅野選手の思いを受け取ったチームメートは3点を奪い、試合をひっくり返した。最終的には1点届かず敗戦したが、浅野選手は「今までは敬遠されて打線が抑えられることもありましたが、僕の後ろの打者が練習して、自覚をもってやってくれた結果だと思います。敬遠されてもいい打者が並ぶ、いいチームになりました」と仲間に感謝した。
感情を露わにしてチームの雰囲気を壊した過去の姿はない。そして、打席内容でも成長を感じさせた。
近江・山田投手との初対決。浅野選手はフルカウントまで一度もスイングせず、6球目のスライダーをレフト線に運んだ。
「あまりストライクが入らず、ボールも抜けていたので、四球でもいいかなと思ってボールをしっかり見るようにしました」
ヒットにできるボールを確実に捉えたツーベースだった。
衝撃の弾丸ライナー弾と、課題を見つけた唯一の空振り
続く打席は2点を追う3回、1アウト一塁の場面だった。浅野選手が打席に入る前、近江はタイムを取って選手がマウンドに集まる。浅野選手は、その様子から狙い球を決めた。
「山田投手が大橋(大翔)捕手に笑いながらうなずいていたので、直球で押してくるかなと頭に入れました。カウントを取られても、直球を狙おうと思って打席に入りました」
初球は内角いっぱいの直球でストライク。2球目はツーシームが内角低めに外れて1ボール1ストライク。3球目。やや外寄りにきた146キロ直球を迷わず振り抜いた。弾丸ライナーでバックスクリーンに飛び込む同点2ラン。狙っていた直球を一振りで仕留めた。
3打席目。浅野選手はフルカウントから、ツーシームをレフト前に運んだ。注目すべきは、この打席の初球。真ん中低めのストライクゾーンからボールゾーンに落ちるツーシームを浅野選手は空振りした。他の選手であれば、特別な意味を持たないシーン。だが、浅野選手にとっては少し違う。この夏の甲子園で唯一喫した空振りだった。