甲子園の風BACK NUMBER
ドラ1候補・浅野翔吾「57球で空振り1度だけ」驚異の選球眼を得た真相 以前は「イラッと」「チームの雰囲気を悪く」したが…
posted2022/08/24 06:00
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Nanae Suzuki
準々決勝で聖地を去った。だが、今夏の甲子園で最も大きな足跡を残した選手と言えるだろう。
高松商の浅野翔吾選手。「今秋のドラフト1位候補」、「世代最強打者」といった呼び声に偽りがないパフォーマンスを見せた。
打率.700、3本塁打6打点2盗塁もすさまじい成績だが
浅野選手は3試合で打率.700(10打数7安打)、3本塁打、6打点。5四死球を記録し、計15打席で3度しか凡退していない。出塁率.800、長打率1.800、得点圏打率.500、6得点、2盗塁と数字を上げるほど、凄みが際立っていく。相手チームが警戒する中で結果を残した浅野選手も「1打席、1打席集中して打席に入りました。出塁を目指した結果が、いい形につながったと思います」と自身に及第点を与える。
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浅野選手の打撃を語る上で、もう1つ驚異的な数字がある。
「57分の1」
今大会、浅野選手は打席で57球に対峙した。そのうち、空振りしたのは1度しかない。技術と選球眼の良さを示すこの数字こそ、昨夏からの一番の成長を示している。
「あの頃の自分は感情を態度に出したり、チームの雰囲気を悪くしたりしてしまいました」
浅野選手が「あの頃」と振り返るのは1年前。当時も2年生ながら、主砲として打線をけん引していた。チームの合言葉は「翔吾に回せ」。上級生からも頼りにされる絶対的な存在だった。
高松商と対戦するチームの対策は明確だった。
浅野選手を徹底的にマークする。四球でも構わないという考えから内角を厳しく突かれ、浅野選手の死球は増えた。勝負を避けられ、四球で歩かされることも珍しくなかった。思い通りにバットを振らせてもらえず、浅野選手は苛立ちを募らせた。不満や怒りを表に出す時もあったという。並外れた打力を持っていると言っても、まだ高校2年生。感情をコントロールできないのは当然だろう。
浅野選手の心境に変化が芽生えたのは、3年生が引退して新チームがスタートしてからだった。主将を任され、打順はこれまでの2番から1番で起用されるようになった。求められるのは、チームを引っ張るプレーと振る舞い。長尾健司監督からのメッセージに、浅野選手は自分を変える覚悟を決めた。
四死球、申告敬遠に苛立つことはなかった
今大会、浅野選手は四球や死球に苛立ちを見せなかった。むしろ、1番打者としての役割を果たせたことに満足し、信頼する後続の打者たちに託した。
ベンチでも声でチームメートを引っ張り、負の感情を表に出すことはなかった。
その姿勢は最後の一戦まで貫かれた。