「直球がきたと思ったら、ストンと落ちました。さすが、いい投手だと思いました」

　試合後に回想した浅野選手は、どこかうれしそうだった。チームとして山田投手が投じる低めの変化球に手を出さないように対策していた中での空振り。直球だと確信した軌道から鋭く落ちた1球に、新しい課題を見つけた。そして、その課題が自身の成長につながると喜びを感じているようだった。

監督も「ボールを見極める本来の良さを取り戻しました」

　主将として、1番打者として、チームを引っ張ってきた1年。浅野選手は甲子園で負けた悔しさ以上に、充実感を口にする。

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「今までは敬遠された後にボール球を振って三振して、自分勝手なプレーをしていました。チーム打撃をできるようになったのが、一番の成長です。主将としてベンチで声を出しながら、顔に出すこともなくできたのも良かったと思います」

　長尾監督も、この1年間の変化に目を細める。浅野選手には「もう教えることはない」と次のステージに送り出す。

「死球や敬遠が多くなってイラッとしてボール球に手を出して、ストライクとボールの見極めをできなくなった時期がありました。でも、主将になってつなぐ意識で打席に立ち、冷静にボールを見極める本来の良さを取り戻しました。もう1つ上のステージで、もっと成長してほしいと思っています」

「ホームラン打者というより、中距離ヒッターで」

　浅野選手はプロ志望届を提出すると明言し、次はプロ野球の世界で勝負する。高校通算ホームランは67本。夏の甲子園でも、逆風となる浜風に負けることなく右中間スタンドまで運んだ一発、弾丸ライナーでバックスクリーンに突き刺した一発など、3本のアーチを描いた。それでも、ホームランにはこだわらない。ボール球には手を出さず、任された1番打者の役割に徹して結果を残したように、冷静に自己分析して先を見据える。

「体は小さいですがパンチ力はあると思うので、ホームラン打者というより、中距離ヒッターで強い打球を打って、チャンスをつくれる打者になりたいです」

　1年前、最終回の攻撃中にベンチで涙を流し、試合後は号泣した姿はない。

「後悔はないです」

　衝撃的なホームランに驚異的な数字。聖地に成長の証を刻み、次のステージへと進む。

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