エップラーは大谷の訪問を隠そうとしたが、アメフトのプロチームがそこにいる状態で――応援スタッフと報道陣も一緒にいる――、そんなことができるはずもない。

「6フィート4インチの日本人がそこにいたら、絶対に目立つよね」

　のちにエップラーが語った。

「彼がロサンゼルスにいることは、みんなが知っていた。われわれはそれを隠したことはない。ただ、できるだけ人に見られないように球場内へ誘導しただけだ」

　イーグルスが球場を離れるやいなや、午後5時半前後に、大谷は球場ツアーをすることになった。冬の工事中で、新しいスコアボード、そのほかの改装真っ最中の現場を見てまわった。

　数日前のCAAにおける面談では、ひたすらエンゼルス側が話していたが、このときは大谷が沢山の質問をした、とエップラーは振り返った。数時間球場に滞在し、夜になって解散した。

ファイターズ時代の大谷翔平　©︎Hideki Sugiyama

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「一つ言い忘れていたことがあってな」

　この会合後、バレロがエップラーに電話を入れた。バレロは、大谷がいつ最後の決断を下すのかはわからないと伝えたという。期限日まで2週間の時間を残して、場合によっては、決断の前に大谷は日本に一時帰国する可能性もあると、バレロは通達した。

　翌金曜日の朝、エンゼルスが大谷と初対面した4日後で、プレゼンテーション資料を提出してから10日が過ぎていた。

　エップラーは、何も期待しないままオフィスへ向かった。車の中で、バレロからの電話が入り、大谷がいつ決断を下したとしてもすぐに発表してほしいと釘を刺した。獲得競争で負けた球団は、バレロからの連絡を受ける前に報道から結果を知るはずだからだ。

　エップラーは、「いつでも結果を伝えてくれていい」とバレロに約束した。

　それからオフィスに到着したあとに、再び電話が鳴った。バレロだった。なぜ、こんなに短い間隔で二度も電話がかかってくるのか、当初は混乱したとエップラーは言うが、すぐに側近の部屋に入り、扉を閉じてから電話をとった。

「さっきの電話で、一つ言い忘れていたことがあってな」

　エップラーの述懐によると、バレロがこう切り出したという。

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