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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
大谷翔平エンゼルス入り決定の瞬間…“熱血GM”が尻もちをついた2回目の電話「一つ言い忘れたことがあってな」
text by
ジェフ・フレッチャーJeff Fletcher
photograph byGetty Images
posted2022/08/26 11:02
2017年12月、笑顔でエンゼルス入団会見に臨んだ大谷翔平。チームメイト、そして多くのファンが大谷の加入を喜んだ
「どういうことだ?」
「ショウヘイ・オオタニが、エンゼルスの一員になりたいんだとさ」
「何だと!?」
「おめでとう。あいつは、おたくの選手だ。見事に引き寄せたんだよ」
一瞬絶句して、エップラーは椅子に腰かけようと後ろに倒れ込んだが、椅子は床を滑っていったため、エップラーは床に尻もちをついてしまった。異変に気づき、バレロは電話越しに叫んだ。
「ビリー、ビリー! オーナーのアルテに電話しなきゃダメだろ」
バレロは、オーナーのアルテ・モレノに即刻電話すべきなのはエップラーだと考えていた。
今すぐにでも、公式の入団発表を報道陣にリリースするはずで、そうすれば速報が全世界へ広がることになる。
CAAからのEメールが全米とロサンゼルスのごく限られた主要メディアに送られ、ツイッターで速報が流れた。
なぜ大谷はエンゼルスを選んだのか?
エンゼルスのオフィスでは、エップラーが扉を開けて吉報を直接伝える前から大歓声があがった。そのとき、全米に散らばっているエンゼルスの選手たちも喜びの声をあげ、ちょうどトラウトの結婚式で集まるところだったので喜びがさらに増した。
大谷がエンゼルスを選んだという一報が世界に広まるやいなや、次に出てきたのは「なぜ?」という疑問だった。
その後、数日、数週間、数カ月にわたり、この問いに対する答えはあいまいなままだった。
バレロの当初の声明によると、大谷がこの球団を選んだ理由はこうだった。
「エンゼルスとの強いつながりを本人が感じて、メジャーリーグで今後目標を達成していくうえでいちばん手助けになりそうな組織だったから」
バレロはさらに付け加えた。
「ショウヘイの決断の背後に何があったか、いろいろな憶測が飛び交っているが、彼にとっていちばん重要だったのは市場の大きさでもなく、時差でもなく、リーグでもなく、エンゼルスとの間に感じた絆だった。キャリアの中で次のゴールを目指すという点で、最高の環境だと感じたのが理由ということだ」
この次の日、エンゼルスはスタジアムのすぐ外で記者会見を開き、そこには数百人のファンと数十人の報道陣が南カリフォルニア全体と日本から集まってきていた。大谷が高座に腰かけ、テレビ生中継が入り、自身の言葉で、なぜ今回の決断に至ったかについて語り始めた。
「説明するのは難しいのですが、エンゼルスなら、何かが性に合う気がしたんです……。細かく切り分けていくと、沢山の要素が絡んでくるわけですが、僕はただエンゼルスでやってみたいと思った。この思いは言葉では説明しきれないものです」
大谷が今回のような大きな決断を迫られたのは、2012年にファイターズとの契約とメジャー行きのどちらかを選ばなければならなかった18歳以来のことだった。
あの当時も、ファイターズを選んだのは「フィーリングだ」と語っていた。ファイターズとの間に何か縁を感じ、お互いのためになると心で感じたのだろう。あの決断が正しかったことはすでに証明されていた。NPBで5年間あれだけ輝くことができ、MLBのチームへさらに大きな価値を売り込むことができたからだ。