だが、選手たちにアップデートしたという感触はまだない。ボランチとして攻守の要として躍動するMF押川優希（3年）は、青森山田戦を終えたスタンドの景色を忘れない。

「試合後、挨拶が終わってパッと顔を上げたら、スタンドで喜んでいるのは帝京側の保護者とバックアップメンバーの数人だけ。スタジアムの横で着替えていても『青森山田、負けちゃったね』という声が聞こえてきました。スタジアムに静寂を感じて、みんな自分たちを見にきていたわけじゃない、誰もが僕らの勝ちを望んでいなかったんだなとリアルに感じました」

　伊藤も思いは同じだ。

「やっぱり“今”を掴んでいるのは青森山田や前橋育英、昌平なんだなと感じました。1回倒したくらいじゃ、こっちを向いてくれないし、優勝しないといつまで経っても過去の栄光ばかり見られてしまうなと思いました」

「僕らは重要な世代だと自覚している」

　帝京が狙うのはプリンスリーグ関東を制覇してのプレミアリーグ昇格、そして13年ぶりの選手権で優勝を成し遂げ、ユニフォームに10個目の星を刻むこと。レジェンドである松波氏は、新たな歴史を築こうとしている後輩たちへの期待を隠さない。

「インターハイ決勝を見ても、帝京としての戦う心などはしっかりと引き継がれている。でも選手権の番組などで流れる帝京の映像は、僕らの決勝戦（1991年度）や（同じく優勝した1983年度の）清水東との決勝ばかりだから、早く今の後輩たちの映像になってほしい。頼もしい後輩たちが本気で新しい帝京を作ろうとしてくれていることが嬉しいよね」

　夏のインターハイ準優勝は彼らにとって大きな狼煙となったことは間違いない。夏を越えて、冬の舞台で帝京はどんな姿に成長しているだろうか。

「帝京の長い歴史において、僕らは重要な世代だと自覚しています」（伊藤）

　温故知新。キャプテンの言葉は、古豪復活、いや新生・帝京の躍進を予感させるものだった。

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