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「あの騒動があった分、間違いなく成長できた」18歳のパワハラ告発から4年…体操・宮川紗江が語るパリ五輪への再スタート
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/09 11:01
9月で23歳になる宮川紗江。4年前の騒動、そして東京五輪の落選を振り返りながら、2024年への目標を力強く語った
聞くと速見コーチから指導を受け始めて今年で12年目になるという。
「昔は親子って言われていたんですけれど、今では熟年夫婦なんていう人もいます(苦笑)。でもそう言われても仕方がないですよね」
2人の間だからこそ分かる阿吽の呼吸のようなものがあるのだろう。ただ、あの一件以来、指導法に変化が訪れているのも宮川は感じている。
「もちろん暴力的な指導はもうありません。伝える言葉や雰囲気が変わったところは間違いなくあって、私もコーチも今は練習への取り組み方、集中力の高め方などは試行錯誤しているところです。ただ、私自身も変わらないといけなくて、今までは一方的に言われるままでいたのを、今は色々と考えて自分の考えていることを伝える努力をしています。歳を重ねるにつれて練習の計画もよく考えるようになりました。私もコーチも一緒に成長していくということです」
宮川は体操一筋で来たからこそ、2年後のパリ五輪には出ることを心に決めている。しかし、以前とは気の持ちようが変わったという。
「ちょっと前までは五輪に出ないと意味がないなんて思っていてしんどかったです。でも今はパリ五輪に出ることがゴールじゃないと思えるようになりました。自分の体操をもっと研究して、やりたい体操をどう表現できるかと楽しみたいんです。多くの人たちからそういう私を見たいと言ってもらえて、心が少し軽くなりました」
体操人生、五輪がすべてではないと悟った宮川はまた一つ、大きな壁を乗り越えたようだった。それに将来のことを楽しそうに話す口調からもそれはよく分かった。
「現役を退いたらやりたいことがたくさんあるんです。今も子どもたちに教室で教えていてすごく楽しくて、そうした指導者の道もいいなと思い始めています。今はYouTube活動は控えていますが、体操を広めたいという気持ちで始めたものなので、それも充実させたいですし、タレント活動への憧れもあります。指導者としての経験を積むために米国留学とか、体操の普及活動のためにも試合も主催してみたいです。あとは海外の方と結婚したいとか考えていたり(笑)。本当にやりたいことがたくさんありますね」
あの騒動がなかったら?
最後に聞いてみた。あの暴力指導の騒動がなかったら、宮川選手の体操人生はうまくいっていたのだろうか、と。
「そうは思いません。騒動があった分、間違いなく成長できました。もし何もなかったとしても多分、同じ壁にぶち当たってると思います。コーチとの関係性の問題しかり、モチベーションの問題もそうです。大なり小なり、いずれぶち当たっていた壁。あれは1つの大きなニュースになった出来事だったけど、小さな身内だけの関係の中での“大きな出来事”だったので、成長する過程においては経験しておいて良かったです。そして今は体操協会でもたくさんの方々から応援して頂いているので本当に心から感謝しています」
そう言って笑ってみせた宮川。ピンと背筋の伸びた姿勢から、筋の通った一本の強い芯が見えた気がした。
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