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「あの騒動があった分、間違いなく成長できた」18歳のパワハラ告発から4年…体操・宮川紗江が語るパリ五輪への再スタート
posted2022/08/09 11:01
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph by
Takuya Sugiyama
「今日取材があるって、昨日聞いたんですよ! コーチがちゃんと言ってくれなかったんです(笑)」
体操女子の宮川紗江(22歳)は少し嫌味っぽく、速見佑斗コーチ(38歳)に食って掛かった。それになんとも言えないばつの悪い表情を浮かべる速見コーチ。その場には、2人が4年前の“パワハラ騒動”の当事者とは思えないほど、和やかな空気が流れていた
宮川は現在、「戸田市スポーツセンター」を拠点に速見コーチと共に練習に励んでいる。ここは体操に必要な設備がある日本でも指折りの施設で、宮川も「女子体操界では知らない人がいないと言われるほどの名門クラブがある」と話す。実際にここから多くの五輪選手や日本代表が輩出されてきた。
「嬉しい」よりも「やっと」
今年4月、全日本体操個人総合選手権に出場した宮川の隣には速見コーチの姿があった。2018年8月に宮川への暴力を伴う指導で、日本体操協会から無期限登録抹消処分を受けていたが、再登録が認められていた。試合会場に入るのは3年8カ月ぶり。取材陣の前で「新鮮な気持ち。今まで試合でサポートできず、宮川選手にしんどい思いをさせたので、ようやく、もう1回、スタートラインに立てた」と語っていた。
宮川にこの時の心境について聞いた。
「コーチの現場復帰は嬉しいというか、『やっと』という感じでした。長かったなというのが率直な気持ちです」
少し息をついて宮川が話を続ける。
「実際に試合の時はそこまで久しぶりという感じはありませんでした。試合会場に入れなくても、練習はずっと一緒だったので。試合が始まってしまえば、演技するのは1人なので、そこまで影響はないのですが、試合前の精神的な状態が落ちつけていなかったり、あたふたしていたりするのはすぐに見抜かれるので、そういう時に一言かけてもらえると落ち着いたりできる。そこが一番大きいと思います。年齢を重ねるにつれて、自分で感情のコントロールはできるようになってきていますけれど、まだまだですね」
体操も個人競技とはいえ、やはり試合本番にコーチがいるのといないのとでは、少なからずパフォーマンスに影響を及ぼす部分があるのだろう。4年の空白を乗り越え、ようやく二人三脚で試合に臨める環境が整ったことにホッとした表情が印象的だった。