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「あの騒動があった分、間違いなく成長できた」18歳のパワハラ告発から4年…体操・宮川紗江が語るパリ五輪への再スタート
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/09 11:01
9月で23歳になる宮川紗江。4年前の騒動、そして東京五輪の落選を振り返りながら、2024年への目標を力強く語った
宮川は2016年リオデジャネイロ五輪に日本代表として出場。種目別のゆかと跳馬は予選で敗退したが、女子団体で4位入賞した。次の東京五輪に向けて、着々と準備を進めていたところ18年8月に速見コーチの暴力指導問題が発覚し、コーチは無期限登録抹消の処分を受けた。
しかしその後、当時18歳の宮川は記者会見を開き、日本体操協会の一部からパワハラ行為を受けていたと告発した。「このままでは五輪に出られなくなる」といった発言のほか、ナショナルトレーニングセンターの利用に制限をつけられるなどの行為があったと主張。また、速見コーチからの暴力行為は認めつつも、今後も師事したいと語っていた(その後、日本体操協会は第三者委員会による報告書にて、協会関係者のパワハラ行為は認められなかった、と発表)。
この衝撃の告発は、週刊誌やワイドショーなど世間を巻き込んだ大騒動となった。もう4年前の話である。
「あの時の会見に後悔はまったくありません。当時は体操界がもっと変わればいいという一心でしたし、あのあと周囲に助けてくれる人がたくさんいたことにも気づけて、すごく感謝しています。あの告発で多少は状況も変わったと感じますから」
東京五輪は「悔しい気持ちもあった」
自身が関わる場所では風通しが良くなったことを肌で感じることも多い。速見コーチの無期限処分も正式に解除となり、新たな気持ちで前に進むことができている。
でも当時は精神的に影響がなかった、とは言えなかった。あの一件で練習に集中できない状態が続き、代表合宿参加や世界選手権などの出場を辞退。「東京2020オリンピック特別強化のための強化指定選手」のリストから外れ、海外遠征試合のメンバーにも選ばれなかった。東京五輪は21年に延期開催されたが、もちろんそこに宮川の姿はなかった。
一方で、16年リオデジャネイロ五輪に日本代表として共に出場した村上茉愛が、東京五輪の種目別ゆかで銅メダルを獲得し、日本女子体操としては57年ぶりの快挙を達成した。
「自分はここに出ていたんじゃないかという想像も何回もしていました。リオのときと比べちゃったりもして……。実際に五輪に出ている選手を見ながら悔しい気持ちもありました。でも代表から漏れたあとはすぐに切り替えられたのですが、東京五輪の時点でパリまであと3年もあるのかとか、本当にこのままパリを目指していいのかとか……。口では『五輪を目指す』って言っているけれど、本当にそう思っているのか、自分でもわからない時期がかなり長く続きました。頭の中でいろんなことが巡っていました」
それに、頼りにしていた速見コーチが無期限で試合会場に入れないことへの影響も大きかった。
「例えばずっと指導を受けていたコーチが変わると選手のパフォーマンスは落ちると思います。教え方やプログラムが違うと、練習の質も変わるものです。私の場合、練習は速見コーチと続けていましたが、本番の試合にコーチがいるのといないのとでは、細かい部分でのパフォーマンスに影響はあると感じます。ここ最近までずっとしんどくて、調子も上がらないし、成績も出ない。何のためにやっているかわかんない感じになっていました。それこそ、(悩んでいたのは)本当にここ1カ月半ぐらいの話です」