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60歳で優勝、最低クラスから“奇跡のカムバック”…ボートレーサー日高逸子が走り続ける理由「どん底からはい上がるのが私らしい」
text by
田中耕Koh Tanaka
photograph byKoh Tanaka
posted2022/08/12 11:01
60歳での優勝とA1級復帰という偉業を成し遂げた日高逸子。どん底から這い上がった“還暦ボートレーサー”の闘志の源泉とは
還暦で優勝、最高ランクに奇跡のカムバック
その積み重ねが、前人未到の奇跡につながった。2022年1月に2番目にグレードが高いA2級に復帰すると、3月11日、尼崎競艇場で行われたGⅢオールレディースの大会で快挙を達成した。優勝戦に勝ち残り、4コースから第1ターンマーク(ブイ)でインコースを差し、見事に優勝を飾ったのだ。
60歳5カ月で通算76度目の優勝。これは自らが持つ女子最年長優勝記録(2020年8月1日、58歳9カ月)を、さらに塗り替える快挙だった。
「まさか60歳になって優勝できるなんて……」
この日は、運も味方にした。スタート直前に西日が差し込み、スタートの目印となる大時計の針が見えづらくなっていた。このため、5、6コースの選手のスタートが遅れ、日高に有利な展開をもたらしたという。
「神様は信じないけど、もしいるとすれば、これまでやってきたご褒美をくれたのかもしれない」
ファンの前でウイニングランを披露し、手を高々と挙げた。
夫の邦博によると、世界の公営競技で女子選手が60歳で優勝した前例はなく、最年長記録の可能性があるという。ギネス記録に申請中で、認定されれば逸子は「世界一」の称号を手にすることになる。
このレースも含め、審査期間(2021年11月~2022年4月)の成績は出走回数132回、勝率6.36となり、A1級への昇格条件をクリア。7月からの復帰を決めた。
「私の人生は逆転に次ぐ逆転の繰り返しなんです。どんなにつらくても、努める者は報われると信じてやってきた。どん底からはい上がっていくのが私らしい生き方。努力すれば、人は誰でも逆転できるんだから」
そうきっぱりと口にする日高の「逆転人生」の出発点にこそ、強さと不屈の精神の源流が隠されていた。
<#2、#3へ続く>