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告白して玉砕すること6回、14年の恋物語の結末は?「僕がヒダカになる」還暦ボートレーサー日高逸子を支える“理想のパートナー”
posted2022/08/12 11:03
text by
田中耕Koh Tanaka
photograph by
Itsuko Hidaka
時は日高が高校を卒業し、上京した頃にさかのぼる。20歳になった日高は菓子職人の道をあきらめ、ツアーコンダクターを目指して旅行専門学校に入学した。その時、同級生として出会ったのが、後に結婚することになる井上邦博だった。
新潟県出身で高校時代は剣道の国体選手でもあった井上は、剣道選手として大学から勧誘の声もかかったが、ネクタイを締めた仕事に憧れ、高校を卒業し医薬品の卸売会社に就職。添乗員の仕事がしたくなり、旅行専門学校に入った。日高とは同い年。しかし2人はすぐに恋に落ちたわけでなく、物語は井上の一方的な片思いからスタートした。
「僕が単純に彼女を好きになっただけでしたが、『将来はこの人と結婚するかもしれない』となんとなく思い込んで、全身全霊で告白しました」
6回の告白も振り向かず…運命の人との出会い
入学2カ月後の授業が終わったある日、井上は日高を呼び止め、顔を真っ赤にして声を震わせた。
「僕と付き合ってくれないかな」
日高は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑いながら告白を一蹴した。
「なに言ってるの。冗談はやめてよ」
井上は優しく、話もよく聞いてくれる友人だったが、「恋愛対象」として見たことはなかった。それに毎朝早く起きて学校で勉強し、夜はバイト。恋をする余裕はなかった。
「交際なんて、これっぽっちも頭になかった。早く世界を飛び回る夢を叶えたかったし」
しかし、井上は諦めない。1カ月過ぎると、また告白。その後も2カ月に1回のペースで告白し続けた。
日高の答えはいつも同じ。
「学生ならちゃんと勉強しましょうよ。ねっ、そうでしょ」
そんなきっぱりとした性格に、井上はさらに引き込まれていった。常に何かを追い求めているような逸子の瞳は輝きを放ち、小さな体で力を振り絞って真っすぐ前を向いて人生を歩いているように思えた。