すばらしい態度だったぞ。ありがとう！

　引き上げる明徳ナインに対して「帰れ！　帰れ！」のコールが浴びせられる中、星稜ナインは移動バスに乗り込んだ。

「選手たちはみんな、明徳の選手は無事帰れるかなあ、と心配してるんですよ。悔しいに決まってるのに、そういう言葉は口に出さずに。ああ、すごく成長したなあ、負けたけれど最高のチームだったなあと思いましたね」

　宿舎で開かれたミーティングの席で、山下監督は、巨人時代に427度も敬遠されながら、不満な顔を見せずに一塁に歩き続けた王貞治を引き合いに出して、松井をこう褒めた。

「松井、ご苦労さんやったな。僕は野球人として王さん、長嶋さんを目指せと言ってたけど、本当に王さんになったな。敬遠の20球を、飛びついたり、ピッチャーを睨んだりもせずに、すばらしい態度だったぞ。ありがとう！」

　松井もナインも、スイカの種をプップッと出しながら、涙を浮かべて静かに聞いていた。

「だけどな、松井。負けて有名になるのは星稜やからね。またやってしもたな！　最後にそう言ったら、みんな爆笑ですわ（笑）」

2011年に松井は母校を訪問し、山下総監督に挨拶　©Sankei Shimbun

夏の甲子園を制した馬淵に山下が掛けた一本の電話

　その夜、テレビ番組「熱闘甲子園」の中で、ジャージ姿の星稜の選手たちが、夜景を見て楽しそうに笑っていた。筆者はまだ悔しくて悲しかったのに、彼らはすでに気持ちを切り替えているように見えて、驚いた覚えがある。

「おい、松井、どこ行く？　みんなで六甲山から神戸の夜景でも見るか？　と提案しました。切り替えさせることしなきゃいかんなと。日本三大夜景を見て、何か感じてくれればなあと思って。みんな田舎の子だからね、わあ、すごいなあ、という感じで見てましたね」

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