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「松井、本当に王さんになったな」“5打席連続敬遠”の敗北後、星稜・山下監督は宿舎で松井秀喜をほめていた「すばらしい態度だったぞ。ありがとう!」
posted2022/08/16 06:02
text by
石黒謙吾Kengo Ishiguro
photograph by
Sankei Shimbun
Number759号(2010年7月29日発売)より『山下智茂・星稜総監督が初めて明かす「松井5連続敬遠」の痛恨』を特別に無料公開します。※肩書はすべて当時
<全2回の後編/前編はこちら>
3打席目は「ここはさすがに勝負するだろう」
5回表、1死一塁の場面で松井の3打席目。
「ここはさすがに勝負するだろうと思っていた。でも、またか……、と」
月岩は倒れるも、6番福角元伸のヒットで1点を返して2対3。だが、あと1点が遠い。
試合中、敬遠され続ける松井には、どんな声をかけていたのだろうか。
「松井とはほとんど話をしてません。思い切り振れよ、と言うぐらいで。彼には細かいことを言わなくても、信頼していましたから。ただ、月岩は呼んでました。敬遠あるから初球を狙っていけとか、結果は考えんでいいから自分のバッティングをしなさいよ、と」
4打席目は「今度はまさか! でしたよ」
7回表、2死ランナーなしで迎えた松井の4打席目。5万5000人が詰めかけたスタンドから「勝負! 勝負!」という声が上がる中、馬淵監督の策にブレは一切なかった。
「今度はまさか! でしたよ。ランナーがいない時に……。今までこんなことはなかったんでね。みんな松井と勝負して、もし打たれてもそれを糧にしてまた大きくなるでしょ。よし、次は抑えてやろうと。それが高校野球だろうと、僕は思うんです。ただこれは、馬淵さんには馬淵さんの、僕には僕の高校野球観があるということでね」
雰囲気に色が付くならば、松井の第4打席の時点で、甲子園は濃い灰色となっていた。
1点ビハインドのまま、9回表。星稜最後の攻撃で、2死から山口が左中間オーバーの三塁打を放ち、力強くガッツポーズ。その姿を見て、松井はどれほど燃えたことだろう。打席に入り、河野をしっかり見据える。だが、明徳のキャッチャーは、またしてもボックスの左に大きく足を踏み出した。