1打席目は「あると思ったね。あ、来たなあと」

　13時15分、サイレンとともに球審の右手が上がり、星稜の先攻で試合が始まった。

　1回表。2死から3番の山口が三塁打を放つ。松井は当然のように歩かされた。

「1打席目は、ランナー三塁だから、あると思ったね。あ、来たなあと」

　首を傾げる明徳先発の河野和洋投手を見て、笑顔でうなずく馬淵監督。続く5番の月岩信成はサードゴロに倒れ、チェンジ。

　この時、明徳の外野は敬遠の失投対策ということか、フェンスいっぱいに下がっていた。この“松井シフト”は、最終打席まで続いた。

　2回裏にはエラーやパスボール絡みで明徳に2点の先制を許す。

「エラーは仕方ない。早い回に1点取りさえすれば、2点、3点と入って、流れをつかめるだろうと、その時は考えていました」

2打席目は「ここも敬遠だろうと思ったね」

　直後の3回表。星稜は1死二、三塁のチャンスで、松井に打席が回る。

「ここも敬遠だろうと思ったね」

©Koji Asakura

　2打席目も淡々と敬遠である。スタンドから少しずつブーイングが出始めた。山下監督は腕を組んで見守る。馬淵監督は1打席目よりもずっと深く何度かうなずく。が、今度は笑顔がない。そして満塁で月岩。

「スクイズのサインは2球目に出したかな。どうしても1点欲しかったから」

　スクイズが決まり1点差。しかしその裏、明徳が1点を追加し、差は再び2点となる。

　だが、星稜先発の山口は以後、5イニングを無安打無四死球と、明徳打線を抑え込んだ。

「山口は3点までに抑えて、4点取れば勝てると、予定通りに行ってたんだけどね……。こうなると監督の差ですよ。馬淵さんは、前半に勝負を賭けてきたよね。前半に点を取らないと、苦しい試合になると分かってたんだ」

＜後編につづく＞