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野球クロスロードBACK NUMBER
「あれは、ホームランです」10年前、大谷翔平の甲子園出場を止めた“ポール際への一発”…盛岡大附4番に向けられた“疑いの目”、しかし大谷は
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph bySankei Shimbun
posted2022/07/26 11:03
2012年の岩手県大会決勝。花巻東・大谷翔平からホームランを放った盛岡大附・二橋大地がいま明かす「あの打席」の裏側
「あの時は『よし!』って嬉しかっただけでしたね。当時はホームランがポール際だったことはわからなかったし、大谷とかがそうやっていたのかはわからなかったです」
二橋の3ランで4-0。盛岡大附は序盤から主導権を握り、5-3で花巻東を退けた。
「球場全体が花巻東を応援してるようで」。しかし大谷は…
あのホームランがファウルだったなら?
仮に二橋の一発がなければ盛岡大附は2-3で敗れていたことになるが、そんな皮算用が実現するほど野球は簡単なスポーツではない。大谷に15奪三振を喫しながらも9本のヒットを浴びせた盛岡大附の、完全な作戦勝ちだったことは揺るぎない事実であるし、当然のように二橋のホームランだって、今でもれっきとした公式記録である。
しかし、スタンドがそれを許さない。岩手の覇者に釈然としない視線が向けられた。
「県外ばっかりの選手で勝って嬉しいか!?」
キャプテンの優勝インタビュー中に、祝福とは言い難い言葉が飛び交う。本当なら堂々と正面入り口から凱旋できるはずの勝者は、「危険だから」という理由で裏口からこっそりと球場を後にする羽目となった。
とりわけ疑義を向けられたのが、勝利の立役者だった。二橋の言葉には悲哀がにじむ。
「球場全体が花巻東を応援してるようで、『甲子園に行ってほしいんだろうな』ってすごく感じたんですよね」
周りは自分たちをヒール役に仕立てた。
ただただ、甲子園に行きたい。そんな純真をえぐり取られるようでもあった。
でも、二橋は喜べた。それは甲子園出場を果たせたこと。なにより、目標としていた大きな存在に追いつけたと実感できたからだ。
「ナイスバッティング!」
決勝戦後にかけられた大谷の言葉で、二橋は顔を上げることができた。
<後編へ続く>
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