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「ヒデはきっと素直な気持ちを口にしただけで」担当スカウトが知る高卒ルーキー中田英寿の素顔〈メディアとの衝突、岡田武史の誤解〉 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byNaoya Sanuki/JMPA

posted2022/07/19 17:00

「ヒデはきっと素直な気持ちを口にしただけで」担当スカウトが知る高卒ルーキー中田英寿の素顔〈メディアとの衝突、岡田武史の誤解〉<Number Web> photograph by Naoya Sanuki/JMPA

瞬く間に階段を駆け上がっていった中田英寿。獲得レースを制したベルマーレ平塚の元スカウトがルーキー時代の秘話を明かした

 プロ2年目のある試合後、コメントの一部を切り取られ、本人の意図とは異なる報じられ方をしてしまう。中田の言葉に反応したキャプテンの田坂和昭らのコメントも曲解され、『中田、総スカン』という記事が出たのだ。森は渋い顔で回想する。

「平塚のチーム内では実際、“総スカン”なんてされていなくて、むしろ、誰もが一目置いていました。ヒデのおかげで輝いていた選手も多かったですし。私の認識では、あの日以来、メディアの前でまともに話さなくなり、写真を撮られるのも嫌がるようになりました。それまではメディアに出るのも、取り上げてもらうことも、喜んでいるほうだったんですけどね。もともとは誰とでも気さくに何でも話すタイプでしたから」

「ルイ・コスタ、知ってますか?」

 理想のプレーヤーについて、楽しそうに話していたことをふと思い出す。若かりし中田が魅了されたのは、ポルトガル代表MFのマヌエル・ルイ・コスタ。自陣でボールを奪い、ゴールにつながる長いスルーパスを出すプレーに心を惹かれていた。

「ヒデに『ルイ・コスタ、知ってますか?』と聞かれて、『知ってるよ』と答えましたが、実は私、その少し前までルイ・コスタのプレーを見たことがなくて……。ヒデのお気に入りの選手だとどこかで聞き、映像で予習していたんです。『僕もルイ・コスタのようなパスを出したいんですよ』と言うので、隣で知ったような顔をして静かに頷いていました」

 後に中田の代名詞となり、『キラーパス』とも呼ばれた。平塚時代から将来、ヨーロッパでプレーすることを意識し、タイミングとパススピードにはこだわっていた。強化部にパスの受け手となるFWにはスピードのあるタイプを求めたこともある。味方に厳しい要求を出すばかりではなく、他者を素直に認めることができた。

「ジジイのくせに…」「マコのパスはすごい」

 平塚ではいぶし銀のサイドバックに舌を巻いていた。総合力が高く、中田との相性が良かったのだ。

「『ジジイのくせに公文(裕明)さんはうまいよね』と親しみを込めて話していたのは面白かったですよ」

 95年ワールドユース(現U-20ワールドカップ)のアジア予選、96年アトランタ五輪予選から戻ってくると、ジュビロ磐田の田中誠を絶賛していた。

「マコ(田中)のパスはすごいよって。足元にぴたっと縦パスをつけてくれるうまいディフェンダーを高く評価していました」

 平塚で1年目から主力となり、年代別日本代表で国際経験を積むたびにたくましさは増していった。

 ただ、その存在が大きくなるにつれて、歯に衣着せぬ発言も思わぬところまで影響を及ぼしていった。1996年3月、マレーシアのシャーアラムスタジアムでアトランタ五輪予選を視察した後、クアラルンプールのレストランでスカウト仲間と食事をしているときだった。

【次ページ】 岡田武史に誤解されていたヒデの言葉

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