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「ヒデはきっと素直な気持ちを口にしただけで」担当スカウトが知る高卒ルーキー中田英寿の素顔〈メディアとの衝突、岡田武史の誤解〉
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2022/07/19 17:00
瞬く間に階段を駆け上がっていった中田英寿。獲得レースを制したベルマーレ平塚の元スカウトがルーキー時代の秘話を明かした
数日後、相模川沿いの大神グランド(旧練習場)に顔を出すと、チーム練習の合間にひとりボールを高く蹴り上げ、周囲を確認するように首を振り、さまざまな部位でトラップを繰り返す選手がいた。いつもは隙間の時間に体幹や腹筋、腕立てなどの自重トレーニングをしていた中田である。18歳の頃から誰に言われるでもなく、自ら課題を見つけて、考えて努力していた。
「ベルマーレの関係者もチームメイトもみんな知っていたと思いますが、ヒデは日々の努力を惜しまなかったですね。自主練習に加え、専門のトレーナーをつけて体を鍛え、語学の勉強もしていましたから」
チーム内ではすぐに中心的な存在になった。ある試合のハーフタイムで古前田監督が守備をより引き締める指示を出すと、1年目の中田は自らの意見を臆することなく口にしたという。
「いや、もっと攻めたほうがいいと思います」
平塚の指揮官は年齢に関係なく、一人のサッカー選手として尊重し、その場で18歳の主張を聞き入れた。
「ナカタはいつも怒るからキライ」
チームメイトたちも同じである。年が離れた先輩も、実績のあるブラジル人選手たちも、中田の実力と努力を認めていた。名門サントスで活躍した経歴を持つアウミール、個性派のクラウジオらは、たどたどしい日本語でクラブスタッフに冗談交じりにふと漏らすことがあった。
「ナカタはいつも怒るからキライ。でも、うまいから好き、あいつ、サッカーすごい」
現場では年齢、国籍、立場に関係なく、誰に対しても態度を変えなかった。自分の思ったことをはっきりと口にすることで、軋轢が生まれたのはメディアとの関係だ。取り囲む多くの記者は、中田よりも一回りも二回りも年上。なかには、面白く思わない人もいたのかもしれない。