濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「栄養失調と脱水症状で吐き気もして…」朝倉海の代役でRIZIN出場、39歳・昇侍が涙で語った“壮絶な舞台裏”「これが格闘技の世界の答え」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/07/06 11:01
怪我の朝倉海の代役として急遽ヤン・ジヨンと対戦した昇侍。海はセコンドでサポートした
減量についても率直に語った。
「自分でもやったことがない急激な減量でした。4日くらい何も食べず運動して、最後の300gがどうしても落ちない。栄養失調と脱水症状で吐き気もして。サウナでも、あと100gが本当に落ちなくてきつかったです」
そうまでしてリングに上がった結果が負け。怪我もしてしばらくは戦線離脱となりそうだ。試合を終えて、あらためて今回の試合を受けたことをどう思うか、意地悪な質問だったかもしれないが聞いてみた。
「こういう緊急事態は格闘技ではあること。そこで指名をいただいたので、自分ができる最大限の役割を果たそうと。嫌なら断ればいい話ですし。悔しいですけど……」
こらえてきた涙があふれた。それでも昇侍は語り続ける。
「これで諦めず、絶対に復活します。戻ってきます」
アクシデントを美談にはできない。ただ…
親友の海と一緒にケガを治す、そしてリングに戻る。それがこれからのテーマになった。海はSNSで「このご恩は一生忘れません。感謝してもしきれません」と記した。復帰戦はヤンと闘いたいとも。それはヤンも望むところだ。
今回のメイン消滅、カード変更を美談にしたいとは思わない。ありえないこととまではいかないが、昇侍がかなりの無理をしたのは間違いないからだ。結果として勝ったものの、ヤンが階級が上の相手に不要なダメージを負わされていた可能性もある。海も試合に出なければという責任感から、最終的な欠場の判断が遅れた部分も否めない。
RIZINの榊原信行CEOは、今後はより細かく選手の状態の把握をしていかなくてはいけないと語った。オファーを出して、それを受けるか受けないかは選手しだいというやり方には限界がある。選手は試合に出たいから、無理をしてしまうのだ。これまでの海もそうで、怪我を慢性化させてしまった。次のオファーは完治してからだと榊原。
ただそれでも、昇侍の奮闘ぶりはファンの心に刻まれた。ヤンがポテンシャルの高いファイターであることも分かった。次に試合をする時は“朝倉海の相手”という見られ方ではなくなっているだろう。そして海の復帰戦は、昇侍の気持ちも背負ってのものになる。復活ロードは2人で歩む。
試合に穴をあけてしまった、ファンにも昇侍にもヤンにも申し訳ないことをしてしまった。仕方のないこととはいえ、そう思ってしまうのが人間だ。彼の心に落ちた陰影は、次のファイトをいっそう濃密なものにするだろう。
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